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善き書店員 【木村俊介】

白上質紙にタイポグラフィだけのカバーデザイン。

“本質”という言葉を表すかのように感じられるその外観のとおり、内容もシンプルに書店員たちの「あるがまま」を描いています。

物語は書店員たちとのインタビューという、一次的情報のみで構成されています。

しかし、この本をただのインタビュー集と思うなかれ。「新たなノンフィクション」と謳われる本書では取材者の姿を見えにくくし、インタビュー相手の言葉のみで物語をつづり、相手と読者が対面しているような感覚を呼び起こす書き方となっています。

「本は会えない人に会いに行くもの」

これは取材をしたことのある人ならば一度は聞く言葉ですが、本書はまさにそれを深く追及したものです。言葉の選択も、村上春樹のような文学者と比べると「稚拙」に感じる表現が随所に見受けられますが、それもインタビューならではの臨場感を表現するための演出。ありのままの言葉を綴り、読者へ届けています。

また、直木賞作家の藤野可織里のような、「終わりのない日常」を描いている点も注目したい。インタビュー相手は現役の書店員なので当然ではありますが、彼らには今も続く日常があります。だからこそ、すべての話に明確な答えは出ず、読者にも問いかける終わり方をしている話がほとんどです。

そんな中で日々、奮闘する姿が泥臭く、素敵で、とても惹かれます。

ミシマ社らしい、インタビューされた6人の温もりが写し取られた一冊。

一人一人の書店員さんの行き場のない、貪欲で謙虚な思いが込められています。


「善き書店員」木村俊介(ミシマ社)2013年

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