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【読書日記】「エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする」グレッグ・マキューン
はじめに
僕はやりたいことが多すぎて時間が足りなくなり、全部やろうとして疲労がたまってしまうことがよくあります。自分の完璧主義の不健全な面が、充実した仕事・プライベートを妨げてしまいます。
特に、仕事のタスク管理が苦手でした。常々もっとうまくできないかと考えていました。そこで、タスク管理の考え方・方法として、本書を手に取りました。
本書の概要
本書はエッセンシャル思考と呼ばれる、より少数の仕事でより大きな成果を出すための、思考方法または生き方について解説した書籍です。本書はエッセンシャル思考の定義と実践方法を、非エッセンシャル思考と比較しながら説明しています。
本書は、仕事のタスク管理に困っている人、仕事が多すぎて疲れている人、趣味が多くてどれも中途半端になっていることを悩んでいる人などにとって参考になるかと思います。
印象に残ったこと
前提
エッセンシャル思考について述べるために、その考え方や社会の事柄に関する以下の前提を把握しておくのがよいかと思います。
人間のリソース(時間・労力など)は有限である
ある事柄に関して、大多数(80%)のものは不要(ノイズ)であり、少数(20%)のものが支配している(パレートの法則)
人間には選択の権利・能力がある
まず、人間がもつ時間や労力は有限です。なので、リソースを必要なところに必要な分だけ割かなければいけません。
リソースを充てる対象(例えば仕事の様々なタスク)には、重要なものとそうでないものがあります。パレートの法則は80:20の法則とも呼ばれ、「全体の数値の80%は全体を構成する20%の要素が生み出している」という法則のことです。例えば、ビジネスの売上の80%は20%の顧客が、仕事の成果の80%は費やした時間の20%が生み出しているなどです。したがって、膨大な選択肢の中から重要なものを選択しなければなりません。
我々は社会的な圧力や会社の方針、上司などの決定に無批判に従うことがあります。これはある状況ではうまく働くこともありますが、この姿勢は自分自身で自分の人生を選択しているとは言えません。ある選択肢に迫られたときに、何を選ぶかは結局自分自身です。つまり、我々には選択の権利または能力があります。この権利・能力を駆使して、自分の価値または目標にとって重要な選択をすることが大切です。
まとめると、人間のリソースは有限なので、重要な少数の選択肢を自らで選択することが肝要ということです。
エッセンシャル思考の基本方針
エッセンシャル思考の端的な表現は「より少なく、より良く」です。「より多く」は非エッセンシャル思考ということになります。不要なものは切り捨て重要なものだけを残すということです。
エッセンシャル思考とは「自分のリソースを効果的に配分し、重要な仕事で最大の成果を挙げる」とも表現できます。誰もが目指したい理想的な状態です。
エッセンシャル思考を実現するには3つのステップを経る必要があります:
評価する(=優先順位を決める)
捨てる(=選択・集中する)
実行する(=しくみ化する)
膨大な選択肢をある基準に従ってそれぞれを評価します。評価されることで選択肢の優先順位が決まります。そして、自分のリソースや選択肢のコスパを考えて、多くの選択肢を捨てる、言い換えれば、少数の選択肢に集中します。そして、残った選択肢を特定の仕組みの中で実行します。
評価する(=優先順位を決める)
選択肢を健全な状態で評価することは重要です。最初の評価の段階で間違いを犯せば、重要な選択肢を捨ててしまい、無駄なことに自分のリソースを割いてしまうからです。
健全な評価を下すには以下が重要です:
熟考する時間
情報収集する時間
遊び心
十分な睡眠
厳しい基準
個人的には1, 2, 5が興味深かったです。
睡眠の大切さについては以下の記事で紹介しています:
【熟考する時間】
人生(仕事や家族、自分のことなど)を振り返り、選択肢を吟味するには時間が必要です。また、心身の余裕も重要です。自分のための熟考する時間ですから、周囲から孤立した環境を作る必要があります。
これに関して自分が考えた方法は次の通りです。
業務時間の中に3つの「自分時間」:①インプット時間②アウトプット時間③考える時間を用意し、スケジューラに設定します。①②はその名の通り、インプットした情報(情報源:論文・Webサイト・書籍など)をパワポなどにアウトプットします。
③考える時間では(現段階では)、いまやっていること(習慣・タスク・雑務)を洗い出して捨てたり、労働時間を振り返ったり、自分の疲労度・メンタル状況を振り返ったり、今後の休みの計画を立てたりしようと思います。できるだけ、スマホやパソコンは使用せず、紙とペンだけを使用したいです。
【情報収集する時間】
情報収集とは、単に情報源から得られる事実を繰り返すだけでなく、事実の断片から関係性や全体像を発見し、意味や個人の気づきを付与することです(連合・エピソード記憶)。また、細部にこだわるよりも大局を摑むことが大事です。そして、情報収集は一回で完結せず、何度も復習しなければ脳に定着しません。
脳科学の見地からみた、記憶力の定着方法に関する書籍については以下の記事で紹介しています。
これに関して自分が考えた方法は次の通りです。
情報収集のトピック・目的・問いを1つ設定する
小さく分割して設定する
調査対象となる事柄をすべてピックアップし洗い出す
この段階では比較・評価しない
抜け漏れを無くす
それらの全体像を把握し、調査の優先順位とリソースの配分を考える
大局・概要を把握する
関係性・全体像を図示する
流れ・歴史をまとめる
前提事項・共通点・相違点を表にまとめる
細部・詳細を把握する
AppendixでもOK
意味や気づきを吹き出しなどを使って表現する
【厳しい基準】
基準を緩くするとそれだけ基準を超える選択肢が増えてしまいます。これは「より少なく」の方針に反します。そこで、本書では90点ルールという基準の設定の仕方について紹介しています。100点満点のうち、90点という高い基準を満たしたものに集中し、それ以外は割り切って捨てるというものです。
90点以上と未満を言葉で表現すると以下です:
90点以上:絶対にやる、本気でワクワクする、明確にやる理由がある
90点未満:やってもいいかな、Yesとは100%言い切れない、悪くない、人から言われたからやる、みんなやっているからやる、何となくやる、いつかやろうと思っていた
捨てる(=選択・集中する)
「捨てる」という行為は特定の選択肢にリソースを選択し集中することです。また、「選択する」という行為はトレードオフを受け入れるということです。「彼方立てれば此方が立たぬ」です。つまり、エッセンシャル思考では両方を選ぶということはあり得ないということです。
本書では捨てることをいくつかに分類して紹介していましたが、僕が参考になったのは以下です:
拒否する
キャンセルする
【拒否する】
様々なメディアで断ることの重要性が述べられており、エッセンシャル思考も例外ではないです。何かを引き受けるということは、自分のリソースを売るということです。引き受けたときには一瞬の気分のよさがありますが、そのあとに深い後悔や過剰な負担が待っていることを忘れてはいけません。
したがって、イエスマンとは自分の時間・労力を安売りしている人であるといえます。ちなみに、エッセンシャル思考はノーマン(”No" Man)に偏っている考え方なので、釣り合いを取るために映画の「イエスマン」を視聴しました。ノーしか言ってこなかった主人公が、すべてのことにイエスを言うことで人生が好転してくる、という話です。ジムキャリーの顔芸を含めた演技がいいですよねー。
イエスマンもエッセンシャル思考もどちらも正しいことを言っています。これらから学べることは、自分の価値に沿ってイエスまたはノーを適切に使用していくことが重要であることです。何事もバランスであり、グレーゾーンがあり、中庸が大事であるということです。
これに関して本書を参考に自分が納得できる方法は次の通りです。
その場で返事せず、折り返す
時間を置くことで熟考する時間と情報収集する時間をつくる
拒否したら他人にどう思われるかという不安を感じたら、ACTの脱フュージョン*をする
「この頼み・誘いは自分の価値に沿っているか?」と自分の価値に問い合わせる
トレードオフを確認する
Yes:コストとリターン
No:失わずに済む時間・機会損失
代替案を出す
自動返信メールを設定する
相手にトレードオフを意識させる
「この仕事を引き受けたら、○○は後回しになるが問題ないか?」
*ACTや脱フュージョンについては以下の記事を参考にしてください:
【キャンセルする】
拒否するとは現在または将来の選択肢を捨てることです。一方で、キャンセルとは過去の選択肢を捨てることです。
キャンセルに関してよく言われる心理学用語はサンクコストバイアスです。サンクコストバイアスとは過去のお金や時間を使ってしまったという理由だけで、損な行動を取り続ける心理的傾向のことです。
これの対策として本書で提案されている方法は、持たない仮定・ゼロベース思考です。以下を自問自答して、損であるならば失敗を受容し切り捨て、そうでなければ続けます。
「もしこのタスクがなかったとしたら、いまからこれを新しく始めるか?」
「もしこのタスクのコストが0なら、いまからこれを新しく始めるか?」
キャンセル方法として他に紹介されているのは、逆プロトタイプです。逆プロトタイプは、いまやっていること(習慣・タスク・雑務)を試験的にやめてみて、不都合や影響があるかを確かめて、それを続けるか判断する方法です。
実行する(=しくみ化する)
やみくもに選択肢を実行しても意味がありません。しくみ化して自動的・無意識に行動するのが効率的です。本書では以下の方法が提案されていました:
バッファをつくる
ボトルネックを発見する
小さく前進する
習慣化する
興味深かったのは1と4です。
【バッファをつくる】
バッファとは外部からの影響・変動を和らげるのにもたせる余裕のことです。したがって、希望的観測ではなく悲観的観測によって、物事に余裕を持たせなければなりません。
僕が参考になったのは「見積もりは1.5倍で考える」です。人間には、計画的錯誤と呼ばれる、作業にかかる時間を実際よりも短く見積もってしまう傾向があります。なので、自分を良く見せようとして見積もりを小さくするよりも、プレッシャーを減らしつつ時間・労力の余裕を増やすために、見積もりを大きくするのがよいです。
本書ではバッファをつくる方法として「最悪の事態を想定し、徹底的に準備する」ということが述べられています。世界の一流はそうしているそうです。ですが、僕はこれには賛成できないです。なぜなら、エッセンシャル思考の基本方針は「より少なく」であり、起きてもいない将来のことに多くのリソースを割くのはその方針に反しているからです。これは不健全な完璧主義だと思います。
【習慣化する】
本書では習慣化する方法について述べていますが、僕が興味深かったのは脳の神経回路に関する説明です。この文脈では、習慣とは、同じことを反復することで神経細胞同士の間のシナプスが強化され、情報の伝達がスムーズになった状態といえます。結局、習慣も一種の記憶であるということです。神経回路・シナプス・記憶に関する説明は、情報収集のトピックで紹介した記事を参照してください。
感想
エッセンシャル思考は片付けと似ています。これは本書でも言及されています。僕は以前こんまりさんの片付けの書籍について紹介しました。僕が考えるエッセンシャル思考と片付けの類似点は以下です:
片付けの基本戦略は「理想の暮らしを想像⇒評価・捨てる⇒整理整頓」の順番であること
実行する(整理整頓する)前に評価・捨てるを実行する
自分の価値・大切なこと=理想の暮らし、しくみ化=整理整頓(数・定位置の決定、立てる収納)に対応
片付けは「モノをより少なくし、部屋・生活をより良く」する
他人からのもらい物は捨てにくいため部屋が散らかる=他人からの依頼は頑張らなければと思い自分の時間・体力が乱れる
エッセンシャル思考はテクニックであり、考え方であり、生き方でもあります。これは一長一短で身につくものではありません。したがって、練習が必要です。仕事だけでなく、買い物や趣味、情報収集などの日々の生活でも、エッセンシャル思考を意識し続ける必要があります。そして、定期的に熟考する時間を設けて、自分と自分の行動を点検しなければならないです。無意識下でエッセンシャル思考が働くまで、継続的に意識していきたいと思います。
参考文献
[1] グレッグ・マキューン,エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする(高橋 璃子 (翻訳)),かんき出版,2014.