『炭酸』【日常から物語】
【ルール】
・日常で目に入ったものや触れたものをテーマに物語を書く。
【本日のテーマ】
『炭酸』
【本文】
抱きしめられて、唇に触れる。
今までとは、まるで種類が違っていたそれに
思わず目を瞑ってしまうも、
どこか心地よさを感じずにはいられなかった。
絞めつけられたかと思えば、
小さな破裂を連鎖させながら、解き放たれていくような感覚。
鼻から漏れる余韻は満足感をもたらした。
喉を通して中身を溶かしていくように、それを受け入れる。
甘い…酸い…苦い…辛い…しょっぱい…
刺激…爽快…興奮…愉悦…陶酔…
冷え切った身体に不自然に馴染んでいき、満たされていった。
なんだか無理矢理生まれ変わった気分だ。
無色透明だった自分が何かになれたことは誇らしくて、
でも歪に混ざり合ったそれは、
ほんの少しの緩みでどこかへ行ってしまいそうで。
逃がしてしまわないように、
固く蓋をした。
溜め込んだものがどれだけ膨れ上がろうとも。
うっかり開けてしまおうものなら、
音を立てて弾けて消えていくような気がしたから。
いつまで経っても気が抜けなかった。
そうすれば、ずっと続くと思ってた。
でも、その瞬間は不意に訪れるもので。
どうにかしようと思っても、
どうにも出来なくて。
思いっきり振られたから、
溢れて止まらなくて。
閉じ込めていたものは、
音を立てて
弾けて
消えて
残っていた香りは、
自分が何者だったかを教えてくれて、
もう透明だったあの頃には戻れないことを、
思い知らせてくれた。