見出し画像

『ドーナツ』【日常から物語】

【ルール】


・日常で目に入ったものや触れたものをテーマに物語を書く。

【本日のテーマ】


『ドーナツ』

【本文】

彼女の問いに対して、少し考えた後…俺は答えた。

「…ドーナツかな。」

「…自分をものに例えると?」

「うん。」

「えー、なにそれ…意味わかんないんだけど。」

「文句言うなら自分で考えろよ。」

「だって、何にも思い浮かばないんだもん。」

「色々あるだろ…潤滑油とか。」

「そんなありきたりのじゃ嫌だもん。」

「はぁ…そういえば、面接っていつだっけ?」

「再来週の木曜…。」

「第一志望の企業だっけ?受かるといいな。」

「うん…ちなみにさ、なんでドーナツなの?」

「あー…好きだから?」

「あれ?そんなに好きだったっけ?」

「あぁ、今では家で作ったりするんだぞ?」

「へー、そうだったんだ。」

「…なぁ、知ってるか?ドーナツって穴をあけてから揚げるんだよ。」

「あはは、それぐらいは知ってるよ。」

「揚げてから穴を埋めようと思っても無理なんだ。」

「まぁ、そりゃあね。」

「穴のあいてないドーナツを作りたかったら、揚げる前に穴を埋めないといけない。」

「うーん…何が言いたいの?」

「……穴がないように、しっかりと就活対策しとけよってこと。」

「あー…そういうことか!あはは、ありがと!」

「ん、おう。」

「あ、もうこんな時間だ。そろそろ行かないと。」

「この後は?」

「彼氏とデートなんだよね。面接の練習付き合ってくれてありがと!じゃあね!」

そう言って、彼女は去って行った。
俺ではない、他の男のところへ。
俺は心にあいた…もう埋めることの出来ない穴を感じながら、
彼女の背中を見つめていた。

いいなと思ったら応援しよう!