41話 旅の終わり6
間合いを詰め、やつの額めがけて刺突を繰り出す。
もちろん、ジャスティンは〈心眼〉スキルで俺がどこを攻撃したいのかを察知しているだろう。
それで構わない。この攻撃は始点だ。攻防を何度も繰り返す中で、先読みしても回避できないタイミングを探すんだ。
そもそも〈心眼〉スキルは〈観察力強化〉スキルと〈心理学〉スキルが複合したレアスキルだ。相手の思考を完璧に読み取ったり、未来を予知する力ではない。
付け入る隙きはかならずある
そう思った時、ジャスティンは意外な行動に出た。
てっきり破滅剣で刺突を弾くかと思いきや、魔族の証たる額の角を使って俺の攻撃を弾いたのだ。
まずい!
武器を使わずに俺の攻撃をさばいたおかげで、奴はノータイムで反撃してきた。
このままでは胴を真っ二つに切断される!
俺はとっさに側転ジャンプし、すれすれで横薙ぎの破滅剣を回避する。
逆さまになった視界の中、俺はジャスティンの首を刎ねようとする。
だがヤツは丸い物体を俺の目の前に放り投げた。それはまるで手榴弾のような……
文字通り目と鼻の先で爆発が起きる。魔法による爆発ではないため、コピーした〈魔法攻撃無効〉は適応されず、爆風をもろに浴びた。
またしてもふっとばされ、床を転がる。
俺はすぐに立ち上がり、剣を構える。
「口ほどにもないな」
ジャスティンが嘲笑う。爆風を間近で浴びたのはやつも同じだが無傷だ。魔法攻撃以外でノーダメージなのは〈全魔法制御〉から防御の魔法を使ったのだろう。
悔しいが、ヤツの方が強い。イモータルEXがなかったら今ので勝負はついていた。
ここまでの攻防でやつに与えられたのはかすり傷が一つだけだ。
「やっぱりこの体は最高だ。今だったら、ジンヤが相手だって楽勝だ!」
ジャスティンは一気に攻勢へ転じた。
「あれだけ大口を叩いてこの程度か! ざまぁねえな」
声高に笑うジャスティンは調子に乗って油断しているようで隙がない。
俺は守りに専念せざる得なかった。
もちろん、ただ防御し続けるつもりはない。イレギュラーGUの成長加速ですでにジャスティンの動きを完璧に覚えた。
ジャスティンは俺の首を刎ねようと数度攻撃する。力を込めすぎない速度重視の太刀筋だ。
そうして撹乱の攻撃で相手の意識を偏らせつつ、不意に全く別のところを狙ってくるのがヤツの基本的戦法だ。
もっとも撹乱の攻撃だって、たるんだ気持ちで受けようとすれば即座に命を取られるような苛烈な攻撃だがな。
ジャスティンは目線が俺の首に向いているが、しかし体の微妙な動きから、実際は足を狙っているとわかった。
本命の攻撃だ!
ジャスティンは体を沈め、地面スレスレで破滅剣を横薙ぎに振るう。
俺の足を切断し、動きを封じるつもりだろう。
俺は足をわずかに上げ、そしてタイミングよく破滅剣を踏みつけた。
武器を押さえつけられ、ジャスティンの動きが止まる。
今だ!
俺は迷わず首を狙う!
ジャスティンは驚愕に目を見開くものの、それで終わりはしなかった。奴は服の袖から小さなナイフを出してそれで防御する。そして床を蹴って大きく後ろに跳んだ。
直後、足裏から違和感を覚えた。破滅剣がひとりでに動いて、ジャスティンの手に戻っていったんだ。おそらく、念動の魔法で回収したのだろう。
「今のは少しヒヤッとしたぜ。少しだけな」
ジャスティンは破滅剣を構え、再び襲いかかってくる。
さらに速くなった。そんな風に感じるのは、ジャスティンもまた俺の動きを見切りつつ有るからだ。〈心眼〉スキルの精度が更に上がっている。
同じように撹乱の攻撃から本命を撃ち込んでくるが、今度は反撃する余裕もなくただただ防御するしかない。
俺は自分と相手との才能の差を感じざる得なかった。
本来の俺は剣の才能もなにもない平凡なやつだ。
俺が今発揮している剣の腕は天賦の才能などではなく、本来なら20年30年も休まず鍛錬し続けてようやく手に入れる実力を、イレギュラーGUの成長加速で前借りしただけに過ぎない。
凡人が生涯を費やしながら努力して手に入る力。それが俺の限界だ。
対してジャスティンは天才だ。実力を前借りしたという点では〈勇者〉スキルを持つ奴も似ているが、恵まれた才能という決定的な差がある。
とにかく今はチャンスを待つしか無い。
数度の攻防のあと、ジャスティンが僅かな隙きを見せた。
ここだ! 心臓めがけて刺突を繰り出す!
このタイミングなら、防御は間に合わない!
だが、ジャスティンは俺の予想を超える行動に出た。
仁也さんの剣を素手で受け止めた。刃はそのまま手のひらを貫くが、そのせいで心臓へわずかに届かなくなった。
「かかったな!」
破滅剣が俺の右腕を切り落とす。
痛みに耐えながら俺は即座に後退した。幸いにも、止めの二撃目はなんとか回避できた。
だが状況は最悪だ。腕と一緒に仁也さんの剣を落としてしまった。
とにかく、ジャスティンから〈全魔法制御〉をコピーし、回復の魔法:再生の型で腕を直さなければ。
しかし、ジャスティンが炎の魔法:鳳の型を放ってきたため、〈攻撃魔法無効〉を維持するためにスキルのコピーを中断する。
「〈全魔法制御〉は盗らせねえぞ」
くそ! 俺がスキルをコピーできるのをとうとう見抜いてしまったか。
〈攻撃魔法無効〉が手放せない!
イモータルEXのおかげで魔法攻撃を受けても死にはしないが、ダメージ自体は受ける。強力な魔法を連打されて、肉体の再生で動けないところで破滅剣による止めを刺されてしまう。
かと言って、腕の傷を放置するのもまずい。破滅剣で受けた傷なのでイモータルEXで治らない。
その時、どこからともなく矢が放たれ床に突き刺さる。
そして矢から薄い緑色の光が放たれ、それを浴びた俺の体が治癒される。腕も元通りに再生された。
「押されているようですね、調月さん」
「トラベラー!」
いつの間にか彼女が救援に駆けつけてくれた。
「この街の制御権を奪取しました。ゴーレムもホムンクルスも活動を停止しています」
「馬鹿な! 暴走状態ならともかく、今は正常化して俺が統括者だ! 制御権を奪えるはずがない」
「このレベルのセキュリティなら、私達の技術で十分突破可能です。私が派手に戦っている間、仲間に対処してもらいました」
そうか、三四子さんと達哉さんだ! おそらくあの二人がハッキングしたんだろう。
「トラベラー、他のみんなは?」
「大量の強化ホムンクルスとの戦いで消耗していたので休んでもらっています。くわえて、アカシックは私とあなたの二人で決着を付けることを望んでいます」
アカシックは主人公とヒロインが協力してラスボスと戦う絵面が見たいのだろう。まったく最後の最後まで自分のスタンスをブレさせないな。
「足手まとい一人増えたところで何が変わるってんだ!」
そう言いつつも、ジャスティンは電撃の魔法:ジャベリンの型をトラベラーめがけて放ってきた。まず敵を減らそうとする魂胆が透けて見える。
俺は前に立ち彼女の盾となる。
直後、トラベラーが俺の体に隠れながらスマートアローを連射した。
自動追尾する矢は弧を描きながらジャスティンに襲いかかる。
ジャスティンはまるで小バエを追い払うかのような忌々しい表情でスマートアローを叩き落とす。
その間に俺は落ちた仁也さんの魔剣を回収する。
「くそ!」
馬鹿なやつだ。ジャスティン、そうやってナメた態度で戦うのがお前の欠点だ。
ジャスティンが魔法を使う。再び天井に膨大な電撃手裏剣が現れた。初めからそうしていれば良いんだよ。
天才とか強者とか関係ない。本気を出すのが遅れるというのがどういうことか思い知らせてやる。
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