奴隷の国
電車が駅に到着すると、腐った膿のように乗客たちが吐き出され、すぐさま次の乗客が卑しい汚物のごとく車内へ詰め込まれる。
満員電車に乗るたびに、彼は日本が奴隷の国に成り下がったことを実感する。安い金で良いように使われるだけの毎日。誰かの奴隷にならなければ生きることすら許されない国。
せめてもの慰めとして、彼はゲームキャラがビルの上を飛びながら電車と並走する空想にふける。
だが、すぐに惨めな気持ちになってしまう。ゲームキャラがビルの上を飛び跳ねるさまが、ありもしない幸福を得ようと悪あがきしている自分のように思えてしまったからだ。
「こんな国、めちゃくちゃになってしまえばいいのに」
そうつぶやいた瞬間、彼の空想上の存在であったゲームキャラが、こちらに何かを投げつけてきた。
それは窓ガラスを貫通し、彼の隣に立っていた男の額に突き刺さる。
手裏剣であった。
「え?」
思わず窓の外を見る。ビルの上で電車と並走していた空想上のゲームキャラは、いつしか実体を持った現実存在、すなわち忍者となっていた。
忍者が再び手裏剣を投げ、彼が乗っていた電車の車輪を破壊する。
彼の意識は暗転し、次に目覚めたときは脱線して横倒しになった電車の中だった。
外に出てみると世界は別物となっていた。数え切れないほどの忍者がこの国を滅ぼすべく、人々を虐殺しているのだ。
「そんな、嘘だろ……」
嘘ではない。忍者による世界の終末が訪れたのだ。
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