14話 不定の迷宮5
前方からドワーフとエルフの男が行く手を遮るかのように現れる。
ここに来るまで何度か他の冒険者と遭遇していたがそいつらは明らかに違う雰囲気をまとっていた。
直後に背後からもさらに2人の気配。
俺たちの前後を塞ぐ4人は例の堕落冒険者だろう。
「トラベラー、後ろを頼む」
「分かりました」
堕落冒険者たちは無言で襲いかかってくる。脅しの言葉を投げつけてこない。
無駄だと知っているんだ。ここまで潜れるのは最低でも、A級だ。熟練の冒険者が脅し一つで金品を差し出すはずもない。
俺が相手する二人は、ドワーフが盾と剣を構えながら突進してくる。一方、エルフはその場を動かず杖を構える。
盾役が俺を抑え、後ろの奴が魔法で仕留めるつもりなのだろう。
俺はアビリティCPを能力看破目的で使って、ドワールとエルフが持つスキルを見る。
ドワーフは転移の魔法や水上歩行の魔法が使えるようになる〈移動〉スキル、魔法使いは魔法に追尾性能を付与する〈追尾〉スキルをもっていた。どちらもレアスキルだ。
〈移動〉スキルは転移の魔法が厄介だ。魔力消費が馬鹿みたいに多いので、個人の魔力量じゃ2,3メ-トルの移動が限界だが、至近距離での戦いで使うのなら問題ない。
もちろんエルフが持つ〈追尾〉スキルも無視できない。
短距離瞬間移動するドワーフと追尾する魔法を放つエルフ。どっちを倒すべきだ?
俺はエルフを先に仕留めることにした。
峰打ちで気絶させる。そうなれば流石に戦えないだろう。
しかし、攻撃しようとした瞬間に魔法使いの姿が消え、同時にドワーフが現れる。
俺が繰り出した攻撃はドワーフがあっさり防御してしまう。転移の魔法で自分と仲間の位置を入れ替えたんだ。
俺の剣を受け止めるドワーフの顔には揺るぎない勝利の確信がある。
咄嗟に振り向くと、エルフが杖から炎の魔法:火球の型を発射するのが見えた。
ドワーフが転移の魔法を使ったのは、仲間を守るだけでなく、俺を攻撃するためでもあった。
あえて後衛を攻撃させた上で、前衛と位置を入れ替える。そうする事で後衛は敵を後ろから攻撃できる。
敵の魔法は追尾性を持つ。俺はできる限り引きつけてから仁也さんの魔剣で切り払おうとしたが、敵の魔法操作技術は想像よりより高かった。
火球は剣を避けて俺に直撃する。小爆破が生じて全身が炭化した。
あのエルフ、勘が鋭い。仁也さんの魔剣の能力を知らないのに、俺が魔法を斬ろうとしたのを見て、そういう事ができると即座に看破した。
さすがにA級冒険者相手に略奪しているだけはある。
俺は再びエルフを攻撃する。
またドワーフが自分と仲間の位置を入れ替えるが、その瞬間に俺は振り返ると同時に剣を投げる。
剣は俺の背後に回った魔法使いめがけて一直線に向かう。
「そんな小細工で!」
エルフは当然避ける。だが、”それで良い”んだ。すでにアビリティCPでドワーフから〈移動〉スキルをコピーしている。
俺は転移の魔法を発動させ、自分と剣の位置を入れ替える。
「なに!?」
まさか自分たちの戦法を真似されるとは思っても見なかっただろう。奴らは驚きで一瞬動きを止める。
位置が入れ替わったことで、俺が投擲した剣はドワーフの足に突き刺さる。
そして俺自身はエルフのみぞおちに拳を叩き込んで昏倒させる。
ドワーフとエルフを倒した俺は、それぞれにケーブルを投げつける。
ただのケーブルじゃない、こういうときのためにトラベラーから渡された特別製だ。
それは意志を持つかのようにスルスルと動き出すと、またたく間にドワーフとエルフを縛り上げた。
犯罪者用の自動捕縛ケーブルと言ってたか。なんだか魔法みたいだが、彼女の世界にとってはれっきとした科学技術なんだろう。
「そっちはどうだ?」
「もう片付いています」
トラベラーが言う通り、彼女に襲いかかった連中も縛り上げられている。
それから俺たちは捕まえた堕落冒険者を街の兵士に引き渡すために一旦地上に戻り、改めて探索を再開する。
正直なところ殺さずに済んでホッとした。
すでにイレギュラーGUの影響で殺人に対する抵抗力が薄れているが、なおのこと分別はつけたかった。
出来たらこの後も人殺しせずに冒険を続けたい。そんなことを考えながら地下31階に到達した。
31階から40階は仕掛けが厄介なエリアだった。
何箇所かが扉で遮られていて、別の場所にあるスイッチを押さないと開かないようになっていた。
その結果、最短距離で次の階へ行けなくなってしまい、かなりの手間をかけさせられた。
その上で、一つ目魔物がくっついた強化アイアンゴーレムとも戦わないといけないので、40階に到達するまで2日も掛かった。
「ここから先が完全未踏破階層か……」
不定の迷宮の攻略を始めて5日目。酒場などで集めた情報によれば、41階から先はAAA級冒険者ですら踏破出来てない。
「油断しないでくださいよ」
「分かっているよ」
釘を差してくるトラベラーに俺は答える。
下手を打てば死ぬのは彼女だ。半ば押し付けらた仲間の命という責任。逃げられる責任は背負う前に逃げるが、一度背負ったからには腹をくくるしか無い。
「罠も仕掛けもない?」
「ええ」
上の階以上の陰湿な仕掛けや凶悪な罠を警戒していたが、意外にもそれらは一切なかった。
「まあ、罠が無いならそれに越したことはないか」
「果たしてそうでしょうか。不要だから無いのでは?」
迷宮は人の侵入を拒むよう動いている。にもかかわらず罠が不要ということは、配置されている敵が極めて強力だということになる。
「なるほど、さっそくお出ましのようだ」
ガシャンと金属がこすれ合う音ともにそいつは現れる。
敵は一人。鎧をまとい剣と盾を持つ姿は人のように見えるが……
「また堕落冒険者……ってわけじゃないよな」
人型だが人間ではなかった。病的に真っ白い肌で、顔面には目玉があるだけで口も鼻もない。そして背中からは一本の触手が生えており、その先には顔とは別の大きな目玉がついていた。
触手の目玉は見覚えがある。上にいた熱線を発射する魔物と同じ目だ。
「人造生物の一種でしょう」
……そこはホムンクルスって言ってほしいな。もっとこう、異世界ファンタジーの情緒を大事にしてほしい。
直後、相手が触手の先端を向けてきた。
●Tips
第473並行世界
考知郎が冒険している異世界。
第472並行世界と同様に、とある■■■■■■■を■■する人々の■■■■■の影響を受けて、異世界として存在するための並行世界である。
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