30話 英霊の墳墓3
よし、このまま腕をひねり上げて拘束……
だが俺の腕はなぜか急に動かなくなってきた。同時に異様な悪寒を感じる。
「引っかかったわね。私は”魔法使い”よ!」
俺の体が内側から凍結する。対象の内部にある水分を凍結させる、氷の魔法:冷凍の型だ!
「体のどこかさえ触れいれば、私は相手を凍結させられる!」
俺は常識に囚われていた。魔法使いが魔法を発射するのは杖か手のひらからだと。
ミディックが魔法の力を更に注ぎ込むと、俺の全身が完全に凍りついた。
ミディックが俺の胴に拳を叩きつける。凄まじい衝撃が襲いかかり、凍った俺の体はバラバラ砕かれる。
勝利の笑みを浮かべるミディックだが、それは一瞬だけだった。俺の体が時間を巻き戻したかのように再生したのを見てやつの顔が凍りつく。
「そんな、まさか! ここまでやっても死ないの!?」
「この力はスキルとは違うんでね」
魔法は通じないから麻痺毒で倒そうとしつつ、ミディックの真の本命は氷の魔法による全身粉砕だった。おそらく、俺の不死を強力な再生能力だと判断し、再生の余地も無いほどのダメージを与えれば殺せると思ったのだろう。
けど、俺のイモータルEXはC.H.E.A.T能力だ。これぐらいの無敵性がないとチートとは言えない。
「グレント! 一旦引くわよ!」
空に向かって叫んだミディックが脱兎のごとく逃げ出した。グレントも攻撃を中断してあとに続く
「トラベラー、追いかけよう!」
「はい!」
俺とトラベラーは全力で駆ける。
もちろん敵も追いつかれないように妨害してくるが、俺たちの足を止めるには至らない。
飛行の魔法で空にいるグレントはともかく、ミディックは後一歩のところで捕まえられそうだ。
だがその時だ。ミディックが懐からスイッチを取り出してそれを押した。
俺の足元から光が現れる。落ち葉で偽装されたその下に、金属プレートに書かれた魔法陣がある。
まずい、転移魔法陣だ!
「世界の果てまで飛んで行け!」
俺はとっさにトラベラーを突き飛ばして転移魔法陣の範囲外に押し出す。
一瞬で目の前の風景が変わった。
重力を感じず、強烈な息苦しさが襲いかかる。イモータルEXがなかったら確実に窒息死していただろう。
俺は宇宙にいた。
目の前に青い星が見える。地球そっくりだが、陸地の形が明らかに違う。あれが今まで冒険していた異世界だろう。
どうやらミディックが使ったのは一方通行の転移をするものらしく、こちら側に転移魔法陣は見当たらなかった。
このままでは地上に戻れず、永遠に宇宙を彷徨うことになるだろう。
まさかとしか言いようがない。
予想したトラベラー本人ですら”もしかしたら”レベルだったのが的中するとは。
不死能力者を倒すにはどうすればいいか。方法はいくつか有る。不死を殺す力を使う、何らかの形での封印する、そして戻って来られない場所へ追放することだ。
トラベラーは3つ目の手段を敵が使って来る場合に備え、俺にあるものを渡してくれていた。
俺はポケットから第2並行世界製の転移装置を取り出す。かんたんに並行世界移動ができる文明が作っただけあって、手のひらサイズとかなり小型だ。トラベラーが言うには、地球を1周するくらいの距離なら一瞬で移動できるらしい。
能書きはここまでだ。はやく孤立してしまったトラベラーのもとに戻るため、俺は装置のスイッチを押す。
転移の光に包まれた直後、俺はルージャフォリオ宝森林へ戻ってきた。。
「死ね!」
今まさにミディックがトラベラーに短剣を振り下ろそうとする瞬間だった。
そこに俺が即座に割って入る。
まさか俺が戻ってくると思っていなかったミディックに動揺が走る。無論、それで動きを完全に止める間抜けではないが、紙一重が決定的差になる戦いでは命取りだ。
俺は魔剣をふるい、ミディックの短剣を持つ腕を切り飛ばす。
ミディックは無事な方の手から火球を撃ち出そうとするが、俺は足払いで転倒させつつ、眉間に肘鉄を叩き込んで気絶させる。
火球は上空へと打ち出され、その先にはグレントがいた。
偶然の出来事ゆえにグレントはかなり無理な姿勢で回避せざるえなかった。
その大きな隙きをトラベラーが見逃すはずもない。
彼女が放った矢がグレントの脇腹に突き刺さる。
矢にはワイヤーがくくりつけられていた。トラベラーはそれを引っ張ってグレントを地上に引きずり下ろす。
「くそ、離せ!」
グレントは引きずり降ろされながらもトラベラーに反撃の弓を放つ。
敵ながらさすがと言ったところだか、トラベラーのほうが上だった。彼女はグレントの矢を紙一重で回避しつつ、引き寄せた奴の顔面に拳を叩きつけた。
そして木に叩きつけられて気絶したグレントをトラベラー素早く縛り上げる。
俺もトラベラーがグレントを倒す間にミディックをワイヤーで縛り上げている。もちろん、ホリーに使ったのと同じ耐荷重3千トンのやつだ。
それからミディックの腕をイモータルEXの効果伝播による治療を行う。失血死されたら、新しい体で復活されるからな。
ミディックの動きを制限するため、最低限の治療にとどめて腕の再生まではしない。コツは指先で一瞬だけ触れること。
「結局、ジャスティンは出てこなかったな。やっぱり、英霊の墳墓に蘇生法があるのはブラフだったのか?」
「そうかも知れませんし、本当に蘇生法があるかもしれません」
「とにもかくにも調べないと話は進まないか」
「そうですね。でも、まずはミディックとグレントを王国へ引き渡しましょう」
マジックアイテムで王都のルドルフに連絡する。
『さすがはコウチロウ殿とトラベラー殿だ! またしても第二の魔王軍を生け捕りにするとは! 連中を押送するため、そちらへ向かう。渡していた魔法陣を設置してくれ』
「わかった」
俺は2メートル四方の布を地面に広げると、そこには魔法陣が描かれている。
これはアドル王国内の各所にある転移魔法陣の簡易版だ。どこにも持ち運べる便利な代物だが、きちんとした手順で建造した魔法陣より運搬量に劣る。
●Tips
英霊の墳墓
アドル大陸3大迷宮の一つ。迷宮としての規模は小さいが、道中のルージャフォリオ宝森林には凶暴な魔物が生息し、また一時的に蘇った太古の英霊が守護者として立ちはだかる。
元は女神が■■■の■■に備えて密かに建造したもので、当時は極めて限られた者しか存在を知らなかった。
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