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伝説のサンダーライフル 後編
「地球は結界によって通常次元から隔離されています。結界内にはいるには、ある場所に作られたゲートを通る必要があります」
サンダーライフルが教えてくれたゲートの座標はかなり遠く、地球へは銀河を横断する長旅になる。少なくとも2、3週間はかかるだろう。
しかもその途中でいくつかのトラブルに巻き込まれてしまう。
ある時は宇宙海賊が大型旅客スターシップを襲撃する現場に居合わせ、またある時は邪神教団のテリトリーにうっかり侵入してしまった。
その日は宿を取るために立ち寄った惑星アーサルで、クーデターに巻き込まれてしまった。
俺の上空には無数の火の玉が浮かんでいた。敵が発動させた炎の魔法:火球の型だ。
「いくら貴様でもこれは避けられまい!」
額に大量の汗を浮かべながら将軍が叫ぶ。
なるほど確かに凄まじい魔法の才能だ。惑星アーサルの王家を倒して国を乗っ取ろうとする野心を持つだけはある。
だが、俺とサンダーライフルがいる限り、お前の武装国家樹立の夢は潰える。
「灰も残らず死ね!」
無数の火球が雨のように降り注ごうとする瞬間、俺はサンダーライフルの電撃弾を3発撃った。
そう、3発で十分だ。
電撃弾に撃ち抜かれた火球は爆発し、そして周囲の火球を誘爆させる。その連鎖反応で将軍の魔法は不発に終わった。
「もう終わりだ。お前の部下たちは全て倒されるか逮捕された。降参するなら命は取らない」
俺の情けに将軍は拒絶反応を示した。
「私にとって勝ち負けは生きるか死ぬかだ! 生き恥を晒すくらいなら、全てを台無しにしてやる!」
将軍は禍々しいナイフを取り出すと、それで自分の胸をさした。
「邪神の爪よ、我が血を啜って惑星アーサルを滅ぼしてしまえ!」
将軍の肉体は瞬く間に巨大化し、怪獣となった。
その冒涜的姿を見た瞬間、俺は魂をヤスリがけされるような感覚を味わった。おぞましい何かが細胞の隙間から俺の内側を侵食しようとしている。だが不思議と抵抗する気力が湧かず、むしろだんだんと……
「シン! 気を確かに!」
サンダーライフルの声に俺はハッと我に返る。
俺はいつのまにか親父の形見のリボルバーを、自分のこめかみに押し付けていた。サンダーライフルの声が一瞬遅かったら引き金を引いていたところだった。
「私の力でシンに精神防御をかけておきました。危ないところでしたね」
サンダーライフルは自分を悪用されないために、使い手を洗脳などから守る機能を持っている。それが俺を精神攻撃から守ってくれたんだ。
将軍が自分を生贄にして呼び出した冒涜怪獣は惑星アーサルの王都へ向かっている。
「サンダーライフル、どうすれば奴を倒せるかわかるか?」
「将軍が使った短剣を破壊すれば、存在を維持できなくなるでしょう。でも……体内を高速で移動しているようです」
サンダーライフルは照準用魔方陣に短剣の位置を光点で表示してくれた。確かに、目まぐるしく動き回っている。
「大丈夫だ。見えていれば当てられる」
ただ姿を見ただけで人を狂気に陥れるあれは、この世にあってはならないものだ。
この場で絶対に倒す。
俺は銃口を冒涜怪獣に向ける。照準のためのやつを凝視しているせいか、精神防御がかかってもなお、正気にダメージを受けるのを感じた。
「シン!」
「大丈夫だ。お前が選んだ使い手を信じろ!」
意識を限界まで集中させて正気を保つ。ここまで精神力を酷使したのはギャラクシードラゴンを狙撃した以来だ。
俺は引き金を引く。
電撃弾は冒涜怪獣の体内を駆け巡る短剣を撃ち抜いた。
するとやつの体は霞のように消えた。まるで世界がその存在を否定したような感じだ。
戦いの後、俺は王家主催の戦勝祝賀会を辞退して旅を再開しようとした。
「シン様、お待ちください」
出発の直前、惑星アーサルのお姫様が俺を引き止めようとする。
「わたくしは貴方をお慕いしております。どうか残って共に人生を歩んで頂けないでしょうか」
「俺は自分の魔力を魔法として使えない。俺みたいな無能の代名詞は、お姫様と釣り合わないさ」
「そんなの関係ありません。惑星アーサルを救った英雄以上にわたくしと釣り合う方はおりません」
お姫様は瞳を潤ませて俺を見つめてくる。
「俺には夢がある。その夢が目前まで来ているんだ。お姫様と同じ道は歩けない」
俺はお姫様の返事を待たずにスターシップへ乗り込む。
キャノピー越しにお姫様様が何か叫んでいるのが見える。だが俺はなんの未練もなくスタートシップを発進させた。
翌日、スターシップからわずかな異音が聞こえたので、近場のティンダーという惑星で整備してもらうことにした。
俺のスターシップは年代物だけあって、1日では終わらないと言われたので、しばらく滞在する。
「シン、デートしましょう!」
「どうしたんだ、藪から棒に」
「あなたは少々、異性に慣れていないと感じます」
先日のお姫様もそうだが、この旅は妙に異性と縁がある。宇宙海賊のときはさらわれた金持ちのお嬢さんを助けたり、邪神教団のときは生贄にされかけた女冒険者を助けたりもした。
そして決まって彼女たちは助けてくれた恩と一緒に俺に好意を向けてきた。
「最近、女を助ける事が多いのを気にしてるのか?」
「いいえ、まさか! シンがつまらないハニートラップに引っかからないよう、指導してあげるだけですよ」
銃本体から精霊体を出したサンダーライフルは、俺の腕を引っ張って街に繰り出した。
そんな姿を微笑ましく思う。今までヤキモチを焼かれたことなんて一度もなかったからな。
そんな心配などしなくてもいいのに。俺の心は彼女たちにはなびかない。
確かに彼女たちは俺に好意を寄せていた。けれど、それは恩義からくるものだ。
魔法が使えない俺は、他人から蔑まれる立場にある。彼女たちは本当に恩義無しで俺を好いてくれただろうか?
俺はきっぱりと「自分は魔法が使えない」といった。彼女たちは気にしないと言ってくれたが、その気持ちが長続きするかわからない。実際、俺の銃の才能を認めると言ったエバーグリーンは気が変わって俺を追放した。
俺は、彼女たちが心変わりせずそばにいてくれるとは思えなかった。
今の俺が、家族以外で心から信用できるのはサンダーライフルだけだ。
なぜなら彼女は俺を信じてくれたからだ。俺を見て、心から自分の力を預けるに値する男だと確信している。
街に繰り出した俺はサンダーライフルの精霊体と手をつないで歩く。
精霊体は魔力を実体化して作ったアバターだと言うが、しかし彼女の手からは人情のある温かみが伝わってくる。
だが、そんな温かい気持ちに水をさされた。
街で前のパーティーメンバーたちと再会した。
「シン……」
俺を追放したエバーグリーンと目が合う。彼はもちろん、後ろにいるレインとトリプルナインも気まずそうだ
彼らには新しい仲間がいた。竜人族の男だ。新人と言う割には老成していて、エバーグリーンたちよりも明らかにベテランだとわかる。
「久しぶりだな。一緒にいるその子は?」
エバーグリーンがサンダーライフルの精霊体を見る。まあ新しい冒険者仲間には見えないだろう。
「私は彼の」
「護衛対象だ。今はこの子を親元に届ける仕事をしている」
子供扱いされたサンダーライフルが、不満そうにぷくっと頬を膨らませて睨む。
しょうがないだろ。俺たちの関係を説明したら話が長引いてしまう。あとこの惑星では、ロリコンは裁判無しで火炙り刑に処される。
「シン、俺が悪かった。本当にすまない」
エバーグリーンは周囲の目も構わず頭を下げる。
「あの後、何度か痛い目を見てシンが必要だと思い知った。どうか戻ってきてくれ」
「俺がいたらTier7になれないぞ」
極力穏やかに言ったつもりだが、自分でも想像以上に冷徹な声が出てきた。
「それは大丈夫だ。新しくパーティーに入ってくれたブラッド・レッドスケイルさんは、Tier7の冒険者でギルドに顔が利く」
俺はブラッドを見る。
「ブラッドだ。そろそろ引退しようと思っていたが、最後の仕事でこいつらの面倒を見てる」
「ギルドに顔が利くというのは?」
「上層部に引退した仲間たちがいる。下っ端と違って見る目のある連中だ。君が望めば、公平に実力を評価する場を設ける」
サンダーライフルがぎゅっと俺の手を握った。かすかに彼女の不安が伝わる。
俺はサンダーライフルに微笑んだ。安心しろと。言葉などなくともそれで彼女に伝わった。
「もう他人に実力を認めてもらう必要はない」
俺にはサンダーライフルがいる。彼女は俺を認めている。その事実さえあれば十分だ。
他人がどれほど俺に侮辱や嘲笑を浴びせても、もはやただの風の音と変わらない。
「だめよシン!」
だがレインはどうも納得できないようだ。
「魔法が使えないシンは、仲間である私たちと一緒にいるべきよ」
レインが俺の手を取ろうとするが、俺は一歩下がってそれを避ける。
「俺はもうお前たちの仲間じゃない。困ったときに一度だけ助ける程度の義理はあるが、あくまでそこまでだ」
「そんな事言わないで。私達はシンが必要よ。あなたも私達が必要なはず」
そんなレインをブラッドが諭す。
「よすんだレイン。彼はもう揺るぎない心の芯を手に入れている」
「そういうことだ。じゃあな」
俺とサンダーライフルは彼らに背を向けて立ち去った。
●
「こんばんは」
「あら、そんなにびっくりしないで、怪しい者じゃないから」
「あなたこのままでいいと思ってる?」
「せっかくあなたが手を差し伸べたのに、それを振り払った彼は罰を受けるべきよ」
「大丈夫、安心して。そのための力は私が授けてあげる」
「名前? ああ、名乗ってなかったわね」
「私はスパークショットガン。偉大なる帝国が生み出した雷の魔法兵器よ」
●
スターシップの整備が終わり、整備工場で受け取った後、俺の個人端末にメッセージが届いた。差出人はレイン・サンダルフォンとある。
『お前の元仲間を預かった。まだ情があるのなら、街外れの廃墟に来い』
明らかにレインではない者が書いた文章だ。
立て続けに着信が入る。今度は画像データだ。
それを見て俺は息を呑んだ。レインたちが捕らえられている。外傷はないが、意識を失っているので、見ただけで本当に無事かわからない。
「サンダーライフル」
「助けに行くのですね。でも、本当に良いのですか?」
「心変わりしたとはいえ、かつては俺を認めてくれた連中だ。一度くらいは助ける義理がある」
サンダーライフルは反対しなかった。むしろ俺が自分を追放した元仲間たちを助けようとするのを、好ましいとすら思っているようだ。
俺たちはすぐさま指示された場所へ向かう。
街外れにある廃墟は元は大気改良施設のようだ。ティンダーは入植惑星なので、開拓黎明期に作られて役目を終えた時に放棄されたのだろう。
まだ昼間だが施設内は暗い。あちこちに機材や設備があってどこに敵が隠れているか分からない。
敵がこいと指示してきた場所だ。罠はあって当然だろう。
俺はサンダーライフルを構えながらキルゾーンに足を踏み入れた。
敵の懐に入った恐怖はある。だがその恐怖は体と完全に切り離されており、手が震えたり足がすくんだりすることはなかった。
勇気だ。自分の才能への自負とサンダーライフルの存在が俺に勇気を与えてくれる。
かすかな物音。
俺は床を蹴って近くの遮蔽物に隠れた。
電撃の散弾が俺が先ほど立っていた場所に撃ち込まれた。
「良い使い手を捕まえたようね、サンダーライフル」
「その声、スパークショットガンですか!」
サンダーライフルのことを知っている。何者だ?
「敵は帝国製の雷の魔法兵器です。1000年前の戦いで、皇帝を影から支配していた邪神の一柱が私達を模倣して生み出しました」
俺は速やかに移動を再開した。敵がサンダーライフルと互角の威力を持つなら、遮蔽物は防御の役に立たない。
「スパークショットガン、フレイムミサイル、トルネードガトリング、ストーンキャノン、ダークピストル。帝国製の魔法兵器は最後の戦いで宇宙要塞の自爆に巻き込まれたと思っていましたが、まさか無事だったとは……」
「他の帝国製魔法兵器もいると思うか?」
「いいえ。スパークショットガンのみでしょう。全員がそろっていたら絶対するはずの戦法を使っていません」
薄暗がりの中、何者かが飛び出した。歳はサンダーライフルの精霊体とさほど変わらない。
彼女の手にはショットガンが握られていた。
撃たれる前に反撃する。だが相手の幼い姿のせいで躊躇いが生まれ、狙いがずれてしまう。サンダーライフルの電撃弾は直撃せず、少女の肩を抉るだけに終わった。
少女は痛みを全く感じず、それどころか抉られた肩を瞬時に復元させた。
それを見て、俺は彼女はスパークショットガンの精霊体だと理解した。
スパークショットガンは素早く動き、再び暗闇の中に潜む。
廃墟内に響く音から、敵は上へ移動したとわかる。
「シン! 早く移動を!」
何も考えず完全に無意識に体が動いた。サンダーライフルの言葉だ、疑いの余地など無い。
連射音と共に廃墟内で輝く雨が降り始めた。おそらく、スパークショットガンは自分の弾丸拡散率を上げて範囲射撃を繰り出したのだ。
「シン、ひとまず捕らえられた元仲間たちの救出に専念しましょう」
確かに。判断材料が無いままあれこれ考えても不毛だ。エバーグリーンたちがずっと無事とは限らない。
暗闇に潜む敵の攻撃をかいくぐりながら、俺は廃墟の奥を目指す。
不意に、敵の攻撃がやんだ。弾切れ? いや魔法兵器なら周囲の空間魔力を取り込んで低威力でも撃てるはずだ。
「シン!」
俺を呼ぶ声。視線をそちらへ向けるとレインの姿があった。
「レインか」
「ええ、どうにか脱出できたの。さ、ほかのみんなも早く助けましょう」
レインが近寄ろうとしたとき、俺は彼女の足下に電撃弾を撃ち込んだ。
「シン!?」
「それ以上近寄るな。それと背中に隠し持った武器を出せ」
レインは姿を見せたときから、ずっと右手を背中に回していた。
「私はあなたの味方よ」
「どうかな。そもそも一流の冒険者パーティーがたった一人の敵に全員捕まった時点でおかしい。なら裏切り者の存在を考えるのが普通だ」
レインは顔をしかめながら必死に言い訳を考える。だが彼女に口先で他人を丸め込むような器用さはない。
そしてレインは破れかぶれの行動に出た。叫びながら背中に隠していた武器……スパークショットガンをこちらに向けた。
だが遅い。レインが動き出した瞬間にはもう、俺は引き金を引いていた。
電撃弾を受け、レインは弾かれたように倒れる。
レインは無傷だった。あらかじめ防御の魔法、それも電撃を防ぐ耐電の型を使っていたのだろう。
最初、スパークショットガンが精霊体で自分本体を使ったのは、俺たちに敵は一人と思い込ませるためのブラフだ。
実際はレインがスパークショットガンの使い手になっていた。
「スパークショットガンを手放せ、レイン。おまえには何度か命を助けてもらった。だから俺も命だけは見逃す」
「あなたはサンダーライフルに騙されてるのよ! 魔法兵器は自分の性能を発揮するために人を利用する!」
そのとき、サンダーライフルのかすかな動揺がグリップ越しに伝わってきた。
俺はそっと銃身をなでる。大丈夫、おまえがそんなやつじゃないとわかっている。俺たちの関係は騙すとか利用するとか、そんな浅はかなものじゃないだろう?
俺の言葉は声にするまでもなく伝わった。彼女の心が安らいでいるのがわかる。はたからみれば何も変わった様子はないのだろうが、それでもわかるのだ。俺とサンダーライフルの間にはそういう繋がりがあるのだ。
「戦えレイン!」
スパークショットガン本体から叫び声が上がる。
「相手は魔法が使えない人間以下のクズよ! 魔法がある分、お前は絶対負けない!」
案の定、レインはスパークショットガンにそそのかされて、こんなことをしているようだ。
「うん、そうね。私とスパークショットガンには絶対勝てない」
狂気をはらんだ笑みを浮かべながらレインは立ち上がる。
「シンは魔法が使えないかわいそうな人。だから私はあなたに優しくしてあげたのに、それを捨てた。そんな人、生きてる価値、無いわよね」
「以前から薄々感じていたが、やっぱりお前はそういうやつだったんだな」
回復の魔法が使えるレインはよく人助けをしていたし、俺だって何度も助けられたのだが、どうも純粋な善意を感じられなかった。優しさを向けていながら、どこか人を見下したような気配があった。
レインの本性があらわになった今ならわかる。こいつは優越感を得るために、弱者に情けをかけていたのだ。
レインがスパークショットガンで攻撃する。彼女は銃の訓練を一切受けていない。銃を持つこと自体も初めてだろう。狙いはあまりにお粗末だ。
俺は動き回りながら射撃する。電撃弾は直撃するものの、防御の魔法:耐電の型で阻まれる。
「きゃ!」
「ひるむな! どうせ向こうの攻撃は通用しない。なら当たるまで撃てばいい! 前の戦いみたいなまぐれは起きない!」
スパークショットガンが勝利を確信していた。俺とサンダーライフルの攻撃を完封していると思っている。
「スパークショットガン、あなたはあの敗因を偶然と思ってるようですね」
サンダーライフルが冷たく言い放つ。
「だから負けたのですよ。そして今回も」
もうそろそろだろう。あいつらに自分たちがなぜ俺たちに勝てないのか教えてやる。
俺は電撃弾を……おそらく最後の一撃を放つ。
レインはよけるそぶりすら見せない。そのまま強引に接近して電撃散弾を当てるつもりなのだろう。
しかし電撃弾は防御の魔法:耐電の型ごとレインとスパークショットガンを貫いた。
「え? どうして……?」
「そんな……あのまぐれがまた起きるなんて」
理由はシンプルだ。防御の魔法は同じ場所を何度も攻撃されると、そこの防御力が極端に低下する。その欠点を突いたのだ。
もちろん、簡単にできる訳じゃない。
だが俺はやってのけた。
「1000年前、スパークショットガンと闘ったときも、彼女の使い手は防御の魔法で私の攻撃を防ぎました。しかし、シンがやったのと同じ方法で負けたのです」
レインは絶命し、スパークショットガンも完全に破壊された。
俺にはサンダーライフルがいる。
サンダーライフルには俺がいる。
なら、負ける理由はどこにもない。
●
レインとスパークショットガンを倒し、エバーグリーンたちを助けてから数日。俺はついに地球の土を踏んだ。
俺とサンダーライフルの前に、一組の男女がいる。
「父さん、母さん、今戻りました」
サンダーライフルが精霊体を出す。
あの二人は魔法の女神と科学の男神なのだろう。見た目だけではどこにでもいる夫婦だが、どこか超越的な気配を感じる。
「よい使い手に巡り会えたか?」
「はい、父さん。素晴らしい使い手です」
科学の男神の問いにサンダーライフルは胸を張って答える。俺は誇らしい気持ちになった。
「ほかの姉妹たちも新しい使い手を見つけたのよ。久々に、賑やかになりそうね」
魔法の女神がうれしそうに微笑む。
俺とサンダーライフル以外の、魔法兵器とその使い手たち。一体どんな奴らなのだろうか?
これは単なる予感だが、気が合いそうだと思う。
●
「よう、エバーグリーン」
酒場で俺に声をかけたのは、最近知り合った冒険者の男だ。別のパーティーに所属しているが、なんとなく気が合うので一緒に酒を飲むことがある。
彼は俺の隣に座り、酒場のマスターに酒を注文する。
「今日は一人か? 仲間はどうしたんだよ」
「トリプルナインは里帰りで、ブラッドさんは旧友の墓参りに行ってる」
「新参の回復役は? えーっと……」
「アイボリー・ホワイトか? 彼女はこの町に住んでいる姉の結婚式に参加してる」
そういうわけで俺は一人、仲間が戻ってくるのを待っていたのだ。
「ところで、ガンスリンガーズってパーティー、知ってるか?」
「いや初耳だな」
「そのパーティーは全員が銃の天才だ。惑星ダラーハの人造邪神とか、復活した銀河魔法帝国の皇帝とか、最近の大事件のほとんどを解決したほどだ。けど、昇格されずにTier1のままなんだよ」
「どういうことだ? 即座にTier7になってしかるべき実績だと思うが」
「そこなんだよ」
そのとき、男の前に酒が置かれる。彼は一口飲んで話を続ける。
「奴らは魔法が使えないらしい。そのせいでギルドは昇格を認めない。最弱の称号を持つ、最強のパーティー。それがガンスリンガーズだ」
魔法が使えない銃の天才たち。俺は否応なしにシンのことを思い出した。
俺はシンを追放してしまった後悔を忘れるため、この店で一番強い酒を注文した。