38話 旅の終わり3
『では、出撃します』
RGがふわりと浮遊し始める。さっき三四子さんがいってたキネシスマニューバシステムってやつを使っているんだろう。
RGはジェットエンジン顔負けの速度であっという間に鉄人防壁街の上空に到達した。
初撃は肩と腰のミサイルだ。
ミサイル群は扇状に広がって着弾。いくつもの火球が生じて巨大ゴーレムたちを飲み込んだ。
俺は〈汎用特化〉から望遠の魔法を使って地上の様子を見る。そこそこの数を撃破できたが、敵はまだまだ残っている。
直後、巨大ゴーレムが一斉にビームを撃ってきた。
すかさず腕に装着したシールドで防御する。
『急降下します!』
トラベラーの言葉に俺が手すりを握る力を強めた直後、RGが隕石のごとく地上へ突撃する。
続いて、背中にあるガトリングとバズーカが分離し、地上の敵機へ攻撃を開始する。
相手が人間なら雨のように降り注ぐ弾丸やロケット弾に怯みもするのだろうが、相手は無人兵器だ。すぐとなりで味方が撃破されても構わず攻撃を続けている。
地上が近づいてきた。RGは激突寸前で静止し、着地する。
四方には巨大ゴーレムたちの姿がいる。取り囲まれているが、トラベラーはわざとそうなるような場所に着地したんだ。
巨大ゴーレムたちは同士討ちを避けるため、武器をライフルからビーム剣に持ち帰る。トラベラーの狙い通りだ。
両手に持つライフル、そして宙に浮くガトリングとバズーカが四方八方へ攻撃を開始する。闇雲に撃っているように見えて、その殆どが命中していた。
それでも、捌ききれない巨大ゴーレムが何体か至近距離に迫ってきた。
それに対し、RGの背中に残っている二本の大剣がいよいよ動き出した。フードプロセッサーのように機体本体を中心とした巨大な回転刃となって巨大ゴーレムを上下に断ち切る。
1機で何十機も相手していてこれだ。いくら機体の性能差が大きいとは言え、間違いなくトラベラーがこの分野でも達人であるのは間違いない。
目の前で繰り広げられるロボットアニメが現実となった光景に俺は静かに興奮した。
だいぶ敵の数が減ってそろそろ全滅かと思いきや、防壁の一部が開いて敵の増援が現れた。
「うげ、まだいるのかよ!」
『機体を製造・整備する自動工場があるのでしょう』
「くそ、長くなりそうだな」
流石に無限に生産され続けることはないだろうが、なかなか根気のいる戦いになるのは間違いない。
問題は、この状況でジャスティンがのんびり待っているかどうかだ。俺たちが巨大ゴーレムに手こずっている間にどこかへ逃げ出すかもしれない。
『考知郎さんは先に行ってください!』
キネシスマニューバシステムが働き、俺の体が宙に浮いた。
「おい、まさか!」
『えい!』
俺は高速仰角射出される!
「おわあああああ!」
俺は放物線を描いて防壁を飛び越え、そのまま内部へと落下する。
とっさに〈汎用特化〉で防御の魔法を発動させる。不死なので必要など無いのだが、思わず使ってしまった。
そして舗装された道路に俺は叩きつけられる。普通なら潰れたトマトみたいに原型を留めなかっただろうが、防御の魔法とイモータルEXのおかげで、めちゃくちゃ痛いだけにとどまる。
ちなみに道路にはギャグアニメみたいに俺の人型が刻まれていた。
壁の向こうではまだ戦いの音が聞こえる。パイロット技量と機体性能で圧倒しているとは言え、無限に戦い続けられはしない。
早くジャスティンのもとへ行かなければ。
俺は地球人が異星に作った最初の街を駆け抜ける。
街は管理しやすいよう碁盤目状に全く同じデザインの住宅が立ち並んでいる。かつてここで暮らしていた住民でもなければすぐに迷ってしまいそうだが、目指す中心部にはわかりやすい目印がある。
そこには巨大な宇宙船の骨組みがあった。
輝く聖板の音声記録では、地球人は自分たちが乗ってきた宇宙船を解体して街を作る資材に当てた。
あそこには資材として再利用できなかった部分、スキルや異種族を生み出した女神の研究区画がある。そこがジャスティンの潜伏先だ!
だが、目的地まで後少しというところで、俺に立ちはだかる者たちがいた。
「げ、不定の迷宮にいた強化ホムンクルス! しかもあんなに!」
地球人の工場や居住地の自律管理システムはネットワークで繋がっている。すでに不定の迷宮は俺達の手で初期化されてオフライン状態だが、それ以前に強化ホムンクルスの設計図がこっちに流れて量産されていたのかもしれない。
「邪魔だ! どけぇ!」
イレギュラーGUのおかげで、俺はあの時よりも遥かに成長している。今更一度倒した相手に遅れは取らない。
俺は次々と強化ホムンクルスを切り伏せているが、まだまだ敵はたくさん残っていて未だに前へ進めない。
トラベラーの方を見る。まだ戦っていた。
どうする? ここは一旦引いて、トラベラーが巨大ゴーレムを全滅させるのを待つか? RGなら強化ホムンクルスの軍団をあっという間に倒せる。
いや、駄目だ。まごまごしているとジャスティンはどこかに逃げるかもしれない。
その時、強化ホムンクルスの一体が突然倒れた。俺は攻撃していない。
「コウチロウ! 手を貸しに来たわよ!」
現れたのは俺に剣術と活性心肺法を教えてくれたクリエさんだった。
「なぜクリエさんが!?」
「アカシックという人が突然現れて、私達をここに連れてきたてくれたのよ」
「私"達"?」
「ええ、みんな来ているわ」
見ればマテリアさんやマーティンさんも強化ホムンクルスと戦っていた。
それだけじゃない。旅の途中で出会ったソフィア、ライラ、ミケの3人に、なんとジェーン王女もいた。
●Tips
ロボティクス・ジャイアント
全長8メートルの機械工学の巨人と呼ばれる搭乗式人型兵器。基本的にRGという略称を使われる。
骨格フレームに人工筋肉を取り付けた人体模倣設計が主流で、瞬発力に優れた機敏な動作が可能。
操縦形式はパイロットの意識を機体に憑依させるポゼッションシステムを採用している。これにより立って歩く程度なら訓練を必要としない。
またキネシスマニューバシステムで運動エネルギーそのものを発生させる単独飛行が可能。
トラベラー専用RGウェポンフルスタック
調査活動用の量産型偵察機に多数の武装を積載した形態。
ポゼッションシステムで操縦しやすいよう、骨格フレームをトラベラーの体格に合わせて調整している。
キネシスマニューバシステムの応用で多数の携行火器を攻撃ドローンとして使用可能。
偵察機に武器を満載するのは本来なら矛盾した運用であるが、これほどの火力を用意しなければ調査員の安全を確保できない並行世界も存在するので、まれに使用される。
積載する武器は選択可能で、今回のとは異なる武器も使える。
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