メカサムライ一文字三十郎
欲望のるつぼであるメガロシティ。その奥深く、退廃のネオン光すら届かぬ廃ビルの闇の中で、ある戦いが繰り広げられていた。
二人の男の手にはそれぞれ光線剣が握られている。
青と赤の光刃が打ち合うたびに閃光が走り、光剣を握る男たちの顔を照らす。
彼らの体は鋼で出来ていた。魂を持つ機械。機人と呼ばれる人種である。
青の光剣を持つ男は製造番号DZ00130、名を一文字三十郎。
赤の光剣を持つ男は、ただの自動機械に成り果てたかのように自らを語らない。
三十郎が知るのは男が持つ光剣だけだ。銘はレッドセーバー。光剣大業物七工の一振りである。
剣戟は終わりを迎える。ほんの一瞬、些細な太刀筋の読み間違えを犯した謎の男は、三十郎に袈裟懸けで斬られ、動力部を破壊されて絶命した。
戦いが終わるとサイバー忍装束をまとった生身の少女が現れる。忍び名を花影という。
「お見事です。主殿」
「世辞は良い」
三十郎は自らの光剣を収める。
「レッドセーバー内にある電脳を狂わせるウィルスを消せ。お前ほどの忍者なら出来る」
「お戯れを。私はまだまだ未熟者です。ですが、ご期待に答えて見せます」
花影は自らの電脳とレッドセーバーを接続する。
常日頃から奥ゆかしく謙遜する花影だが、三十郎はその腕前を信頼している。彼女以上を望むとなれば、服部半蔵や加藤段蔵の襲名者レベルとなる。
「主殿」
「どうした、なにか問題が?」
「いえ、ウィルスは除去できました。ただテキストデータがあったのです。電子的穢れはありませんので、御覧ください」
三十郎の電脳へデータが送られる。そこにはこう記されていた。
『これは贋作なり。真なる妖刀は我の手に有り。一文字一誠』
それはかつて三十郎と兄弟の契りを交わした男の名であった。しかし……
「馬鹿な。兄上は確かに拙者の手で斬ったはず!」
【続く】