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10話 不定の迷宮1

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 さて、いよいよ迷宮に挑戦だ。

「ところでトラベラー、防具は使わないのか?」

 俺はイモータルEXがあるので問題ないが、彼女はC.H.E.A.T能力を持っていない。

「全身に不可視の防護膜を貼るバリア装置があります」

 トラベラーは腰にある小型の装置を指差す。

「拳銃程度の威力なら無力化出来るので、通常の剣や弓の攻撃なら問題ありません。魔法も低威力のものなら大丈夫でしょう」

「へえ、はたから見るとバリアがあるとは思えないな」

 触ればバリアの感触があるのかなと思ってついトラベラーの腕に手をのばしたら、ぴしゃりと叩かれてしまった。

「気安く触らないでください」

「あ、はい。すみません」

 トラベラーに睨まれ、俺は自分の非礼を自覚する。そりゃそうだよな。婚約者がいる女性をみだりに触れちゃだめだよな。

「俺は活性心肺法っていう身体強化術を使えるが、トラベラーはどうなんだ」

「活性心肺法なら私も習得しています」

「こことは別の世界から来たお前が何故それを?」

 彼女はここに来て一晩しか経っていない。いくらなんでも習得するには時間が短すぎる。

「活性心肺法は極めて効率的な技術なので、私達の世界でフォースエナジーと呼ばれる力を観測している世界なら、高い確率で編み出されます。少なくとも100近くの並行世界で活性心肺法は使われていますよ」

 つまり活性心肺法は身体強化の最適解なので、突き詰めていれば誰もがそこにたどり着くということか。

「そのフォースエナジーってのはもしかして魔力のことか?」

「そうです。魔法や超能力の燃料を私達はそう呼んでいます」

 ともかく、トラベラーの身体強化については問題ないということだな。

「他にも何かスキルみたいなの持っているのか? もし使えるやつがあるならアビリティCPでコピーさせてほしい」

 そういった途端、トラベラーはまるで「おっぱい揉ませてくれ」と言われたみたいな嫌悪感をあらわにした。彼女は揉めるほどないけど。

「お断りします。そういうのも一応は機密扱いですから。必要ないときは一切教えるつもりはありません。言っておきますが、ジャミングを掛けているのでこっそりコピーしようとしても無駄ですよ」

「あ、うん」

 トラベラーは小さな声で「なんでこんな人と一緒に」とつぶやく。

 どうしよう。始まる前から心が折れそうだ。

 とにかく気を取り直して探索を始めよう。

「どっちに行く?」

「少し待ってください。最短ルートを調べます」

 尋ねる俺にトラベラーはスマートフォンみたいな例の端末を操作する。

「こっちです」

 トラベラーは迷わず左の道へ向かった。

「それで内部構造が分かるのか?」

「そうです」

「すごいな。どういう仕組だ?」

「機密です」

 ……機密なら仕方ないね。

 トラベラーの塩対応に挫けそうになった時、この迷宮で最初の敵と遭遇する。

 アイアンゴーレムだ。前のと見た目や持っている剣が違うから、別型だろう。

「まず、俺が仕掛けて様子を見る」

「お願いします」

 俺が剣を抜き、戦う素振りを見せると向こうも攻撃を仕掛けてきた。

 案の定、あの時のアイアンゴーレムより改良されていた。俺がどんな攻撃をするのか多少予測も出来るようだ。

 何度か剣を打ち合うも、ここぞというタイミングが見つからない。

 だったら作ればいいだけだ。

 俺は攻撃が予測されるのを逆手に取る。

 まず、上段からの振り下ろしをするように見せかける。

 その初動からアイアンゴーレムは上からの攻撃を防御する姿勢を取るが、俺は即座に太刀筋を変えて膝関節を狙った一撃を与える。

 構造上、装甲化できない膝を切断されたアイアンゴーレムは前のめりに倒れ込む。

 今だ!

 俺は装甲の隙間を狙って、心臓部がある場所に刃を突き刺す。

「よし!」

 自分の成長を実感し俺は思わずガッツポーズする。強引に倒した時とは大違いだ。

「訓練は受けているようですね」

「まあな」

 次に現れたのは体の四方に足が生えてる奇怪な一つ目の生き物だ。明らかに天然自然から生まれた存在では無く、嫌悪感を覚えずにはいられない。

 一つ目魔物は目から熱線を発射する。

 俺は一歩跳んで回避する。

「ここは私が」

 トラベラーが矢を射ると敵の目玉のど真ん中に命中する。

 だが、間を置かずに更に多くの一つ目魔物が現れた。

「大勢来たぞ!」

「大丈夫です」

 トラベラーの矢が複数の敵にほとんど同時に突き刺さる。すごい連射力だ。とても常人の弓さばきじゃない。

 しかも一度も狙いを外していない。

「なんだか矢が敵を追いかけてるように見える」

「ええ、このスマートアローは追尾機能を持っています」

 円滑な連携のためか、トラベラーは自分が使う武器の情報を教えてくれた。どういう仕組かわからないが、この世界におけるマジックアイテムに相当するようだ。

 更に敵の増援が現れる。一つ目魔物だけでなくアイアンゴーレムも混じっていた。

「ゴーレムなら俺に任せろ!」

「わかりました」

 俺とトラベラーは分担して敵を対処する。

 遠距離攻撃する味方がいるなら射線に注意する。常識だが、実戦の中で常にそれを意識するのは簡単じゃなかった。

「うお!」

 顔のすぐ横を矢が通り過ぎる。

 アイアンゴーレムとの戦いに意識を向けすぎた俺が、うっかりトラベラーの射線に入ってしまったためだ。

「気をつけてく下さい! いきなり割り込まれたら誤射してしまいます!」

「悪い」

 目の前の敵に集中し過ぎると味方との位置関係を忘れてしまいがちだ。

 一人で戦っていた時は分からなかったが、ちゃんと練習しないと味方を意識する癖がつかないんだな。

 不死であるのが油断につながっているのかもしれない。

 今は二人だけとはいえパーティーを組んでいるんだ。死なないからミスしても大丈夫と油断していれば、トラベラーを死なせてしまう。

 ずっしりと体に重たいものがのしかかるような感覚。人の命を背負う重さだ。

 とにかく今の失敗はちゃんと覚えた。もう二度と同じ失敗は繰り返さない。

 俺は目の前のアイアンゴーレムにフェイントを仕掛ける。さっき倒した奴との戦いで、動きは完璧に覚えている。

 相手が上からの攻撃への防御姿勢を取った瞬間、太刀筋を即座に変えて膝関節を切断する。

 片足を失えば勝負はついたようなものだ。俺は倒れたアイアンゴーレムの首の隙間に刃を刺し込んで中の心臓部を破壊する。

 よし、二度目の戦いもスムーズに勝てた。

「お上手ですね」

「アカシックからもらったC.H.E.A.T能力のおかげさ」

 あからさまな社交辞令でも誉めてもらうと嬉しいものだ。

 それから俺たちは30分くらいで地下1階を踏破した

 あっという間だったが、それは俺たちは次の階までの最短ルートを知っていて、なおかつ出てくる敵に苦戦しなかったからだ。

●Tips
トラベラー
 アカシックがヒロイン役として連れてきた長身の少女。年齢は考知郎と同じ17歳。
 本名は■■■■。
 本来は温厚な性格なのだが、婚約者がいるにも関わらず別の男のヒロイン役をやらされているため、考知郎には棘のある態度をとっている。
 彼女はあらゆる■■■■に■■する■■■■■■であり。いままでに何度か■の■■の■■と遭遇している
 胸が平たいのが悩み。

魔法
 魔力を消費して行使される超自然技能。
 魔法を使うにはイメージが重要で、例えば燃焼がどのような仕組みで行われているのか知っていると、炎の魔法を効率よく使える。そのため、魔法使いは科学的知識が求められる。

魔力
 ヒトの想像力を現実化する性質を持つ超自然の燃料。非現実的な現象ほど大量に消費される。
 ヒトの脳細胞から生成される生体魔力と、空間中に存在する空間魔力がある。
 トラベラーの世界では魔力をフォースエナジーと呼ぶ。

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