【小説ワンシーン集】プリンセス・スクワッド③
「ジェームズ卿、これはどういうこと?」
サクラには今、無数の杖が向けられていた。ジェームズ卿の魔法使い私兵隊だ。
「サクラ・盾石・イセリオン、私と一緒に帝国に来てもらおうか。いくら女神の御子とはいえ、丸腰では抵抗できまい」
「救国の英雄の子孫が今や卑劣な裏切り者だなんて世も末ね」
「正義や道徳、忠義などと言った人が”正しい”と称するものは、賢い立ち回りが出来ない阿呆の負け惜しみだ」
ジェームズ卿がニヤニヤと笑う。良心を侮辱し、悪心を尊ぶ、悪魔の手先という言葉がぴたりと当てはまる顔だ。
「ジェームズ卿、あなたには3つ言うことがあるわ」
「良いだろう。負け惜しみを言うくらいの権利はある」
ジェームズ卿は自分の勝利を盤石だと信じていた。短慮な人物だから、魔王に転生したレッドラムも色々と”お手軽”と思って手下にしたのだろう。
「まず1つ、この屋敷はすでに包囲されているわ」
窓の外から弾丸が飛び込んで、近くにいた魔法使いの頭を貫く。ユリアによる狙撃だ。その腕は転生しても変わらない。ジェームズ卿が窓際にいてくれたら、いまので決着がついていたかもしれない。
「2つ目、私は女神の宝具をいつでも呼び出せる」
光とともに現れた防弾シールドとショットガンをサクラがつかむ。
「それがどうした! お前を人質にすればどうとでもなる状況だ!」
「そして3つ目」
サクラはショットガンを構える。
「私を舐めるな」
サクラがジェームズ卿に向けて発砲する。弾丸は配下の魔法使いが作った魔力防壁で防がれるが、ジェームズ卿は「ひゃぁ」と情けない悲鳴を上げる。この男は安全圏でしか大物になれない小物だ。
魔法使いたちが反撃してくる、飛来する炎や電撃をサクラは防弾シールドで防御した。
この装備は強力な耐魔性が付与されている。女神を超える力がなければこのシールドは破壊不可能だ。
サクラは次々と魔法使いたちを射殺する。時折、背後から攻撃してくる敵もいるが、シールドの内側にある鏡でそれを見ていたサクラは、振り向かないままショットガンを背後に向けて撃った。
(転生の恩恵は色々あるけど、やっぱり一番は故障せずに弾切れもしない銃ね)
王女として裕福な暮らし、魔法が存在する世界での新しい戦闘技術の習得、自分を愛してくれるハンサムな婚約者、そういった恩恵の中でサクラが一番”得”だと思ったのがこの銃だ
ベネリM4スーペル90。生前に使っていたこの銃に女神は加護を与えて宝具化した。女神を超える力でなければこのセミオートマチックショットガンは破壊できず、空間中の魔力で生成された弾丸が自動的に装填される。
兵士としての理想、いや幻想を実現したこの銃が自分の手にある。そう思うとサクラは自分がある種の不正を行っているのではないかと申し訳なくすら思った。