夫婦円満の秘訣
夫婦円満の秘訣は人それぞれだが、俺達の場合は結婚記念日にちょっとしたゲームをやる。
有給休暇の朝、日光を浴びて目覚める。
隣を見ると妻はいない。
ダイニングにはすでに用意された朝食と、1枚のカードが伏せられていた。あれには妻の居場所を示す謎かけが書いてある。ようはかくれんぼだ。
でも、まずは腹ごしらえから。
淹れたてのコーヒーの香りを楽しみながら朝食を食べる。
「うん、うまい!」
妻の愛情たっぷりの朝食と大好きなコーヒー。ささやかな幸せ。
小さな喜びの積み重ねは大事だ。それがあると、死んで楽になりたいと思うような逆境でも、もう少し頑張ってみようと思える。
さて、ゲーム開始だ。
カードをめくると、こう書かれていた。
『おしどり物語、第8話のサブタイトル』
すぐに分かった。毎週一緒に見てたドラマだからな。
答えは『実家に帰らせていただきます』だ。主人公夫婦が些細な誤解から喧嘩してしまう内容だった。
妻は今、実家にいる。
「あいつの実家かあ……」
正直気が重たい。駆け落ち同然で結婚したから、妻の実家、特にお義父さんとは折り合いが悪い。お義母さんは俺達のことを認めてくれたけど。
いいかげん和解するべきという妻の意思を感じる。
俺はクローゼットから幻獣の毛で編んだローブと世界樹の枝から削り出した杖を取り出す。サラリーマンに転職してから一度も使ってないが、手入れは欠かさなかった。
着替えてから外に出て、周囲に誰もいないのを確認する。
俺は魔法を使おうとして躊躇する。それだけ妻の実家に行くのは気が重たかった。
「ええい、ままよ!」
俺はエイヤッと杖を突く。
直後、眼の前には白亜の城があった。
荘厳な城門が勢いよく開かれると、威厳のある壮年の男がこっちに突進してきた。
「貴様ーッ! よくも余の前に姿を見せたな!」
お義父さんこと妖精王が憤怒の表情で俺を睨む。
【続く】