4話 冒険の始まり4
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おそらくゴブリンの中では賢い奴なのだろう。戦いの訓練をする重要性に気がつき、そして実行した。
実戦経験もかなり積んでいるだろう。
難易度詐欺もいいところだ。とはいえクエストを出した依頼人からすれば想定外だろう。
俺は絶え間なく攻撃を繰り出すが、達人ゴブリンは体の小ささを活かしてことごとく回避する。
「ゲヒヒヒヒ!」
嘲笑を無視し、無心で攻撃を繰り出す。
けど、だんだん“分かってきた”ぞ。
イレギュラーGUによって俺の攻撃は繰り出すたびに洗練されていく。
それに比例して達人ゴブリンから余裕が消えていく。
何発か熱線を食らってしまうが不死なので問題ない。俺はすぐに対応してどこを狙ってるか見切れるようになった。
「何で死なない! ズルい!」
まあ確かにズルしている。
この達人ゴブリンは強いが、たぶん負けたことがないんだろう。何度攻撃を食らっても死なない俺に対し苛立ちを募らせる。
こういうときは逃げるべきなのに、達人ゴブリンはどんどんムキになっていく。そうなると冷静じゃなくなる。
そして俺は相手の決定的な隙を捉えた。
「そこだ!」
俺の剣が達人ゴブリンの喉に切り裂く。
喉から血を噴水のように噴き出しながら達人ゴブリンは絶命した。
俺は深く息を吐きだす。緊張から解き放たれてどっと疲労感がやってきた。
ふー、意外と苦戦しちまったな。
俺は達人ゴブリンが使っていた魔法の杖を拾う。
ゴブリンが使えているあたり、きっと素質がなくても魔法が使える道具なのだろう。いきなりマジックアイテムが手に入ったのはラッキーだった。
だが……
よく見ると杖には水晶体のような部品が取り付けられているのだが、ヒビが入って今にも砕けそうだった。
「マジかよ……」
俺は愕然とする。壊れていたからじゃない。多少壊れてもなお、あの威力を発揮した事実に驚いた。
もし、魔法の杖が壊れておらずちゃんと性能を発揮できていたとしたら? 俺はさらに苦戦していただろう。
「これが異世界……」
実のところ俺はアカシックから3つもC.H.E.A.T能力を授かり、「俺TUEEE!」になって冒険が簡単になりすぎるかもと思っていた。
だが実際はどうだ。ゴブリン相手でもC.H.E.A.T能力がなければ勝てなかった。
真の冒険とは安全が確約された楽しいスリルなどではなく、情け容赦なく無慈悲に死を与えてくるものだと思い知らされる。
こうなってくるとイモータルEXがもたらす不死は保険にならない。この異世界に、不死を殺す力などないと誰が保証した。
最初に戦ったのがゴブリンで良かった。今の俺が勝てる相手で本当に良かった。
イレギュラーGUのおかげで、俺はだいぶ成長している。少なくとも一人前の冒険者程度にはなっているだろう。
だが、それでも足りない。無敵などありえないから、どんなに強くなっても満足するのは危険だ。
念の為、ゴブリンが残ってないかもう一度、邸宅内を調べてから俺は帰路についた。
それにしても、これからどうしたもんか。
ただ漠然と冒険するんじゃだめだ。自分を成長させることを意識する必要がある。
まず、街に帰ったら剣術を改めて習おう。
アビリティCPで適当なやつから〈剣術〉をコピーするという手もあるが、それはやめておきたい。コピーできるスキルは一つだけだ。イレギュラーGUがある以上、練習でなんとかなる能力は自前で習得したほうが良い。
俺の剣術は簡単な基本を親戚から教わった程度で我流も同然だ。ちゃんとした師匠から指導を受ければ、イレギュラーGUの効果で剣の腕は爆発的に上がるだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、青空だというのに少し離れた場所に雷が落ちた。
魔法攻撃かな? 誰かが戦っているかもしれない。
俺は落雷のあった方向へ駆け出した。おせっかいかも知れないが、もし誰かが命の危機ならば助けたい。
現場にたどり着くと、鎧を着た大男とネモッドの少女剣士が戦っていた。
いや、男は人間じゃない。鉄の人形だ。おそらくアイアンゴーレムだろう。
アイアンゴーレムは血で濡れた剣を握っていた。
すぐ近くには少女剣士の仲間らしき二人が倒れている。ダークエルフの女性とキャトの女の子だ。
少女剣士は剣を構えて、果敢に戦っているが、明らかに不利な状況だ。
彼女は剣を敵に弾き飛ばされてしまう。
「ああ!」
アイアンゴーレムは武器を失った少女剣士に剣を振り下ろした。
「危ない!」
俺はとっさに割り込んで自分の剣で攻撃を受け止める。
達人ゴブリンの次はアイアンゴーレムか。しかも今回は人の命がかかっている。
責任重大だぞ、俺。
●Tips
異世界の人種
地球人と同じネモッドの他、エルフ、ドワーフ、キャトが存在する。
ネモッド以外の種族は、魔物がはびこる世界で生き抜くために女神から■■■■■を受けた■■■■の末裔である。
エルフは寿命が長く、ドワーフは生命力が高く、キャトは五感に優れている。
マジックアイテム
迷宮に眠る古代文明の遺物。現代よりも遥かに優れた科学技術と魔法技術によって作られており、冒険者達によって回収されたものが高値で取引される。
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