【小説ワンシーン集】シャーロック・ホームズの転生①
「シャーリー・ホワイト公爵令嬢、君はホームズだろう」
「さすがに分かったようだね、ジェシカ・グリフィス伯爵令嬢。いや、ワトソン君」
「今度は私が例のセリフを言わせてもらう。初歩的な事だよ。ドイル貴族学院の各所に君が置いたメッセージは英語で書かれた。それにこの部屋だ」
私はぐるりと周囲を見て言う。
「家具の配置がかつて私と君が過ごしたベイカー街221B号室と全く同じだ。しかも君はわざわざハドソンという名のメイドを側付きに選んでる。いくら私が君ほど聡明でなくとも気づくさ」
シャーリーが笑みを浮かべる。女性に生まれ変わっても笑い方は前世と同じだった。
「それにしても随分と遠回しなやり方だったな」
「君の方から気づいてもらう方が良かったと思ってね。ライヘンバッハから戻った時、君は驚いて気を失ったじゃないか」
「確かに」
あれは転生した今となっては笑い話だ。
「さて、こうしてワトソン君と再会できたことだし、ようやくヤツとの対決に向けての準備に取り掛かれると言うものだ」
「ヤツとは?」
「君の耳にも届いているはずだよ。アンナ・ブラウン男爵令嬢の評判は」
「王子殿下とその友人達をたぶらかす毒婦か」
「ただの毒婦だったら。わざわざボクが出るまでもなく、周囲の大人達がなんとかしただろう」
アンナは男に愛想を振り撒くのが上手いだけの尻軽女ではない。シャーリーはそう考えているようだ。
「君はアンナが只者ではないと考えているわけか。彼女も転生者か?」
「そうだ。彼女の前世を君も知ってるよ」
さほど聡明でない私も流石に分かった。私が知る中で、シャーロック・ホームズが最も警戒した相手はあいつしかいない。
「ジェームズ・モリアーティか」
「そうだ。あの犯罪界のナポレオンは、見た目麗しい少女に生まれ変わった事で、色香と言う新しい武器を手に入れた。気を緩めたら足元を掬われるぞ」
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