5話 冒険の始まり5
腹の底から気合を出して全力でアイアンゴーレムに打ち込んだ。
だが俺の一撃はほんの少し傷つけただけに終わる
くそ!
いくら〈筋力強化〉をコピーしていたとは言え、剣で金属の体を切り裂くのは無理があったか。
「駄目だ! そいつの外装は剣や弓どころか、魔法すら弾いてしまう!」
少女剣士が叫ぶ。
魔法すら通用しないだと?! 鉄製だが表面に特殊加工でもしているのか。いや、内部の部品を攻撃すればいけるかもしれない。
俺は倒れているダークエルフを見る。魔法使いの身なりをしているから、遠くから見えた雷は彼女の魔法だろう。ならば……あった! 〈高度電気属性〉スキル!
それは即座にそのスキルをコピーする。
「うおおおおお!!」
俺はアイアンゴーレムの外装の隙間に剣を突っ込む。
そして素早く離れ、〈高度電気属性〉スキルで使えるようになった電撃の魔法・雷の型を発動させる!
すると避雷針となった剣に雷が命中し、電流がアイアンゴーレムの内部に注ぎ込まれた。
人間に例えるなら、内臓を直接攻撃されたようなもんだ。さすがのアイアンゴーレムも内部部品に魔法耐性はなかったらしく、ブスブスと黒い煙を上げながら倒れた。
「そ、そなたは?」
「自己紹介するのはあとだ。今は二人を助けないと」
イモータルEXの力は不死だが、死者復活ではない。
俺は両手で二人に触れて治療する。失った血までは戻らず顔は青白いが、呼吸は落ち着いている。
「ふー」
どうにか助けられて俺は安堵する。
C.H.E.A.T能力を3つも持っているからと言って、何でもかんでも簡単にいくわけじゃない。冒険を続ける中で、今回みたいな事もまたあるだろう
俺についてはしくじっても間抜けで済むが、他人を助けるときは間抜けじゃ済まされない。
やっぱり成長は必要だ。
おっと、少女剣士の事を忘れてた。
「自己紹介が遅れて悪い。俺は調月……コウチロウ・ツカツキという。君は?」
「ソフィア・セーバーだ」
改めて彼女を見ると凛とした美人だ。
ソフィアの顔を見ると頬に切り傷があった。
「君も怪我してるな」
俺がソフィアの傷に触れて治してやると、彼女はものすごく驚いた。
しまった! 女の子の顔にいきなり触るのはまずかったか。
「か、かたじけない……それに二人のことも」
ソフィアは顔を真っ赤にして礼を言ってくれた。
「う、ううん」
「え……生きて、る?」
二人が目を覚ます。
「彼が助けてくれた」
ソフィアが仲間たちに俺のことを説明する。
「そうだったの。アタシはスレットの森のライラ・ライン。危ないところだったわ」
スキルをコピーしたときは切羽詰まっていたので気づかなかったが、美しい銀髪を持つライラはソフィア以上の美人だ。
「フニャー。ミード・ミケの娘、ミラ・ミケです。死んだおばあちゃんが見えた時はもうダメと思いました」
キャトのミラは改めて見ると結構奇抜な格好をしていて、メイド服の上に弓使いの装備を身に着けている。ソフィアやライラと違って、彼女は可愛らしさのほうが強い。
「君たちは冒険者なのか?」
「ああ、そうだ。武者修行のためにな」
3人のリーダー格なのかソフィアが答える。
「300年前からセーバー家の家庭教師を務めるライラ殿と、私専属メイドのミラとともにパーティーを組んでいる」
ソフィアは俺に深々と頭を下げて礼を言う。
「私と仲間たちを救っていただき、感謝する」
「ありがとうね」
「ありがとうございます」
「たまたま運が良かっただけだ。そんなにかしこまらなくていい」
実際、本当に運が良かった。気づいたタイミングもそうだし、もしイモータルEXの力がなかったら3人とも死なせてしまっただろう。
「それにしても、なぜアイアンゴーレムなんかが? こんな人が通る街道に」
「おそらく迷宮から迷い出てきたのだろう。たまにそういう事があるのだ。一体だけなら私達でも倒せると持ったが、やつの外装に剣も弓も通用せず、魔法すら弾いた。コウチロウ殿の機転がなければ終わっていただろう」
「迷宮か、俺はまだ行ったこと無いな」
アカシックのガイドブックに迷宮は古代文明の遺跡とあったな。
元は街やなにかの施設だったのだが、ある日、悪魔に呪われて迷宮と化した。
迷宮は魔物や罠を生み出して人を拒むようになり、そのせいで古代文明は滅亡したという。
迷宮には古代文明の技術で作られたマジックアイテムが眠っているので、一攫千金を夢見て挑戦する冒険者は多い。
いずれ迷宮には挑戦したいが、あんなのがうじゃうじゃいるなら、もっと力をつけたほうが良いかな?
「ところで私達を助けてくれた力、すごいわね。いったいどんなスキルなの? 研究意欲が湧いてきたわ」
ライラが突然腕を組んできて耳元でささやく。やめろ! 胸が当たってるるじゃないか!
「コウチロウ様は命の恩人です。ぜひともお礼をさせてください」
ミラがもう片方の腕に抱きついて胸を当ててくる。あー! 理性! 理性がー!
「ライラ殿! あなたのそういう振る舞うが、セーバー家に生まれる男の思春期を毎回メチャクチャにするのです! ミラもさっさと離れろ!」
ソフィアが二人を引き剥がして、俺の理性を助けてくれる。
「ねえソフィア。コウチロウ君に仲間になってもらおうよ。そうすればつきっきりで彼の力を研究できるわ」
「そうですよお嬢様。この方なら、お婿さんにぴったりですよ」
まずぞ。これはまずい。どうにかしてこの場から逃げ出さないと。
この時もアビリティCPが役に立ってくれた。俺はミラが〈敏捷強化〉スキルを持っているのに気が付き、即座にそれをコピーする。
「それじゃ、俺は急ぐからこれで!」
俺はメロスもびっくりな全力疾走で逃げ出した。もしかするとコピー元のスキルを持つミラが追いかけてくるかもしれないが、瀕死状態から戻った直後では追いつく体力もないだろう。
肺が破裂しそうになるくらい苦しくなっても構わず走り続ける。でもイレギュラーGUの効果で肉体的に成長したのか、途中からはさほど苦しくはなくなった。
そうして俺は街に戻ってきた。
「ふーやれやれ」
「やれやれじゃないわよー!」
スパーンと軽快な音が響く。俺の後頭部をハリセンでひっぱたいたのはアカシックだった。
「何するんだ!」
「それはこっちのセリフよ! せっかくのハーレムパーティー結成のチャンスだったのに!」
「なんだよハーレムって!」
「チートつかってイケイケドンドンの、勝ちまくりモテまくりでうはうはハーレム! それが異世界ファンタジーの醍醐味でしょう! 良家のお嬢さんに、ダークエルフの美女、キュートな猫耳メイドのどこが不満なのよ」
無茶苦茶いってるよ……俺は顔を覆う。
「あのな、3人とも好みかと言われれば好みだし、ハーレム系の異世界ファンタジーも嫌いじゃない」
「じゃあ!」
「けどな、それは読者という立場だから楽しんだよ! 当事者になったら、常に周りに気を使い続けて、胃袋がスイスチーズみたいに穴だらけになるわ!」
それでもアカシックは「えー」と不満そうな顔だった。
「だいたい、彼女たちの好意は恩義からくるものだ。恩義は心の借金だ。彼女たちにそれを背負わせて自由を奪いたくない」
俺は「それに」と言葉を続ける。
「彼女たちと仲間になるということは、その命に責任を持つということだ。ただモテるためだけに人様の命は背負えない。俺は未だ未熟だ」
「……」
俺がそう言うと、アカシックは突然真顔になる。な、なんだよ。
アカシックは心の底を見定めるかのように俺の目を見つめる。だが、やましいことは一つもないので、俺は視線をそらさなかった。
「そこまで言うなら、まあいいわ」
「わかってくれたか」
「けどね!」
アカシックは俺に指を突きつける。
「ハーレム展開は諦めるとしても! あなたには絶対ヒロインをつけさせてもらうから! ヒロインのいない異世界ファンタジーなんてシャリだけのお寿司よ! 首を洗って待ってなさい!」
アカシックはそう言うとぷりぷり怒りながら立ち去った。
「ヒロインって……面倒なことになったな」
ともあれ、俺はクエストの報告するためにギルドへと向かった。
●Tips
女神
スキル教の信仰対象。楽園から追われた人々を方舟に乗せてアドル大陸に連れてきた彼女は、過酷な環境を生き延びるために一部のヒトをエルフやドワーフ、キャトに変身させ、またスキルをもたらしたとされている。
その正体は■■■■■■■■における■■■■。
■■■■■■である〈方舟〉の■■であり■■■■■■■■■の■■■。スキルをもたらす■■■■■■■■や■■■■■で異種族を生み出した。
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