【小説ワンシーン集】追放冒険者争奪戦②
「何って、お前達がくだらない喧嘩騒ぎを起こしてる間に、一人で魔王を倒してきただけだが? 強化士のバーテックス・スキルを自分に使えば、仲間なんていらなかった」
ジャックが軽蔑の眼差しをトップ冒険者達に向けて言った。
「それと俺はどのパーティーにも入るつもりは無い」
「何故だ?」
槍兵ロナルドの問いにジャックは答える。
「一人で魔王を倒せる奴が仲間なんか必要か? お前達だって利用価値の無い奴とパーティーを組まないだろうが」
「そんな事はありません!」
咄嗟に抗弁したのは聖者レベッカだ。
「人は独りでは生きていけません。私はあなたのバーテックス・スキルとは関係なく共に冒険者として歩みたいと思います」
手を差し伸べる聖者レベッカにジャックは呆れた顔をした。
「お前、半年前にあんな事しておいて良くそんな事が言えるな」
「え?」
「他の連中もだ。半年前にこの街のパーティーの半数が参加した大規模クエストの事を忘れてるのか?」
トップ冒険者達は揃ってキョトンとした顔をする。
「呆れた連中だ。利用価値が無い奴が相手だったら、自分が何をしたのかすら忘れるなんて。俺はお前達に殺されかけたんだぞ」
その時、盗賊レックスが「あっ」と声を上げて青ざめる。
「お前は気付いたようだな。そうだよ、あの時、仲間と分断されてた俺は、お前に騙された。この場所に仲間がいると嘘の情報で魔物の囮役にされたんだ」
ジャックは魔女クラリスを見る。
「そこにお前が広範囲の攻撃魔法をぶちこんできたんだ。俺はやめてくれと言ったが、お前はニヤニヤ笑いながら魔法を撃った」
「あ、あのときの冒険者がジャックだったなんて」
魔女クラリスはジャックの視線に耐えきれずに目を逸らす。
「その後は残った魔物をS級パーティーで掃討していたが、魔法の巻き添えで怪我をした俺をまるっきり無視してたよな。レベッカにいたっては回復を頼んでも無価値な弱小冒険者を救っても功徳の足しにならないと言われたな」
もう誰もジャックと目を合わせられなかった。
「し、仕方ねえだろ。あん時のお前はバーテックス・スキルを持ってなかったんだ。有能な奴を大事にして、無能を切り捨てるのが世の中ってもんだろ」
ガーフィールドは言ってはならない事を言ってしまった。
「他の奴らも同じ考えか?」
トップ冒険者達は無言で肯定の態度を示す。彼らは致命的な過ちを犯したと気付かない。
ジャックはため息を吐いて立ち去ろうとした。
「どこに行く、話はまだ終わってない」
槍兵ロナルドが引き留めようとする。
「終わったよロナルド。俺は人間社会というものに心底愛想が尽きた」
ジャックは背を向けながら言う。
「人類の正義と道徳の代表者であるトップ冒険者が、価値のある奴だけが生きて、それ以外は死ねと考えているのなら、それは社会全体がそう考えてるってことだ。俺はそんなクソみたいな世界とは金輪際縁を切る」
トップ冒険者達が己の武器に触れる。力ずくでもジャックを仲間にしようとする腹づもりだ。
ジャックが振り向いた。
強烈なプレッシャーがトップ冒険者達に襲いかかる。彼らはようやく気付いた。目の前の男はたった一人で魔王を倒した勇者なのだと。
トップ冒険者達は武器をその場に落とし、手を上げ、戦意が無い事を示す。
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