ユグドバンブーとバンブーエルフ
俺はウロン大陸の全土を覆う大竹林を進んでいた。
カランコロンと軽やかな音を立てるのは、相棒のシチマ・ザサが身につける竹アーマーだ。彼はバンブーエルフであり、竹を加工した武具を好んで使う。
シチマに初めてであった時、竹製の武具などふざけているのかと思った。だが彼の武具に使われている竹は普通のよりもずっと頑丈で、しかもエルフの魔法による強化も施されている。
俺は竹アーマーがシチマを致命傷から守るのを何度も見た。
それだけでなく、シチマが操る竹槍は敵の鋼の鎧を紙のように貫いた。
軽くて頑丈なバンブーエルフの竹装備は冒険者としてとても魅力的だ。その性能はドワーフ鋼製の装備に匹敵するだろう。
だから俺も竹装備が欲しくなった。
「なら私の故郷へ案内しよう」
「いいのか?」
「ああ。そろそろ家族に顔を見せたほうが良いと思ってね」
こうして俺はバンブーエルフが作る竹装備を手に入れるために、シチマの故郷へと向かった。
俺は遠くに見える目的地を見る。現在地から相当離れているはずなんだが、それでも姿がはっきりと見える。
それは天を貫く巨大な緑の柱だ。
「あれが世界竹《ユグドバンブー》か。想像以上にデカイな」
世界竹はウロン大陸のどの場所からも見える。そう言えばこいつがどれくらい巨大か実感でいるだろう。
それから三日間歩き続けて、俺とシチマは世界竹の根本にたどり着いた。
あらためて見上げると本当に大きい。あまりに大きすぎて緑の壁がそびえ立っているようだし、てっぺんも霞んで見えない。
「わが故郷にようこそ。まずは私の実家に案内しよう」
世界竹の内部は意外にもかなり明るかった。見れば街の各所には巨大な鏡が置かれており、それらは外壁をくり抜いて作った採光窓からの日光を天井へと反射している。
「私の実家は上の方にあるから、リフトを使う。ほら、あそこだ」
「あれはどうやって動いているんだ?」
「風の力を使っている。最上層の外は常に風が吹いているから、外壁に風車を設置してその回転を動力にしているんだ」
俺はシチマと共にリフトにのり、彼の実家のある階層へ向かう。
バンブーエルフの国は世界竹の空洞ごとに機能が分けられているようだ。上昇するリフトから見える途中階は、居住区画の他に、土を持ち込んで作った畑がある農業区画だったり、兵士を育てるための訓練区画だったり様々だった。
ある区画なんかは湖があってバンブーエルフたちが水浴びをしていた。どうやって水を調達しているのか疑問に思っていると、内壁から水が流れでいるのを見て合点がいった。
世界竹も信じられないくらいデカイとは言え、それでも植物には変わりない。成長するには大地から水を吸い上げる必要がある。それをバンブーエルフたちは拝借しているのだ。
「すごいなお前の故郷」
「ふふん。そうだろう」
「けど、どうして世界竹の中に住もうなんて思ったんだ? 普通の発想じゃ出てこないはずだ」
「それには理由がある」
リフトが目的階に到着するまでの暇つぶしにと、シチマはバンブーエルフに伝わる昔話を聞かせてくれた。
「はるか昔、竹取の翁は黄金に輝く竹の中から赤ん坊を見つけた。彼は赤ん坊をカグヤと名付け、自分の娘として育てた。しかしある日、月人が現れて彼女を連れ去ってしまったんだ」
「月人って、各地に伝説を残しているあの?」
「ああ、そうだ」
冒険者をやっていれば月人の遺跡を一度は探索する。彼らは世界中にその痕跡を残している。地上よりも遥かに優れた文明を持ち、決して死なない不滅の存在だという。
それはまさに驚異の存在だ。
エルフですら不老程度で、不死ではない。健康でさえあれば永遠に生きられるが、致命傷を受けたり不治の病にかかればエルフは死ぬ。
「そいつらがなぜカグヤを?」
「カグヤは月人だったんだ。理由はわからないが、彼女は赤ん坊となって地上に逃げてきたらしい」
「でも、結局見つかって、育ての親と無理やり引き離されたわけか」
悲しい伝説だと俺は思った。
「カグヤは連れ去られる直前に、竹取の翁へ竹の苗を渡した。これを自分と思って育ててほしいと。そしてその苗こそが、私達が今いる世界竹なのさ」
「そこからどう世界竹に住むのと繋がるんだ?」
「竹取の翁は世界竹が無限に成長することに気がついた。そこで世界竹がいつか月に届いてカグヤを取り戻せるその時まで、中に住み続けることにした。そして、その竹取の翁こそが我らの王である、竹取王《キング・オブ・バンブーテイカー》なのさ」
シチマの話がおわったタイミングで目的階に到着した。
リフトを降りた俺はつい上を見上げ、その先にいるであろう竹取王の事を考えた。
エルフは不老族とも呼ばれるように寿命がなく、致命傷を受けたり不治の病にかからない限り、月人と同じく永遠に生き続ける。
長い年月のはてに、彼の願いは叶うのだろうか?
続きはこちら 『スペースバンブーエルフ』
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