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【小説ワンシーン集】英雄ロベルトと剣の女神ソードホルダー①

「そこで止まってください。あなたの名前とここに着た目的を教えてください」

 剣士の里の門番は丁寧な物腰だが決して警戒は怠らなかった。実際に手合わせしなければなんとも言えないが、侮ってはいけない実力者であるのは間違いないとロベルトは判断する。

「スノウドップとスティーブンの息子、ロベルト・ウィズダム。剣の女神ソードホルダーに面会するためにやってきた」
「失礼いたしました。女神様よりあなたのことは伺っております。ようこそ剣士の里へ」

 門番が門扉を開ける。
 そのまま真っすぐ進めば女神が住む社があると門番に言えわれたのでロベルトはその通りにした。
 全人類の9割が記憶喪失となった大忘却のせいで、この地域が日本と呼ばれなくなって千年が経ち、かつての文化はほとんど消失したが、剣士の里は意外と日本らしい文化が残っている。おそらく日本文化の永年保存を掲げる京都主義者のエルフがこの集落の建設に関わっているのだろう。

 里の中央に差し掛かると巨大な剣がロベルトの目に入る。長さは目測で5、6メートルほど。ロボティクス・ジャイアント用の装備に間違いない。
 これも剣の女神が管理する魔法剣の一つだろうかと思いながら歩を進めると、ようやく女神の社が見えた。

「待っていました、ロベルト」

 社から黒髪の女性が姿を見せる。初対面だが、旅の途中で彼女に関する伝説や逸話を耳にしているので、目の前の人物がソードホルダーだとロベルトは分かった。

「俺のことを知っているということは、〈大いなる良心〉からの天啓があなたに?」
「ええ。私は使徒ですから」

 ソードホルダーの手に光が宿ると、その直後には一振りの剣が握られていた。

「スノウドップの剣は私ではなくあなたが保管するべきでしょう」

 ロベルトはそれを両手で受け取った。交差点戦隊に所属していた母が使っていたこの武器は、ロベルトにとって数少ない家族のつながりを感じさせてくれる品だ。不老長寿のエルフであるロベルトにとって思い出の品は財宝以上の価値を持つ。

「これで〈大いなる良心〉から頼まれた仕事は終わりです。ここから先は私個人のこだわりです」

 ソードホルダーの手に再び光が宿る。出てきた剣は日本刀型をしていた。

「女神の刀……」
「その通り。私が使徒になる前、まだ第506並行世界にいた頃に使っていた、夫の形見です」

 ソードホルダーが刀を抜く。

「スノウドップの剣は息子であるあなたの手にあるべきでしょう。しかし、あなたが一人の剣士としてその剣を振るうに値するかは別です。剣の女神の名において、あなたの実力、確かめさせてもらいます」
「……望むところだ」

 この100年ほどの旅によってロベルトは人々から英雄と呼ばれるようになった。だが母の剣を受け継ぐに値する人物であるか、ロベルト自身にはまだ分からなかった。自分gな母を含め、交差点戦隊のメンバーを超える英雄であるとはロベルトはまだ自信がなかった。
 ロベルトは剣を抜く。ソードホルダーに対してだけでなく、自分に対しても母の剣を受け継ぐ資格があるのか証明するために、この勝負から逃げたくなかった。
 

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