【小説ワンシーン集】ほうき星の魔女と妖魔の王子②
鳩美は敵の基地から宇宙空間へ飛び出す。脱出は成功したがまだ安心はできない。
追っ手が来た。
声なき声が伝わってくる。炎のように激しい怒りと針のように鋭い嫉妬心がエメラスから発せられる。
妖魔人は宇宙空間でのコミュニケーションをとるために音声ではなくて意思そのものを指向性テレパシーで伝えてくる。
エメラスの意思は、言葉にすると次のようだった。
「死ね! 赤木鳩美! お前さえいなければ殿下は私のものだった! お前を殺せば殿下はきっと私を見てくれる! 私を妃狩りの獲物と見てくれる!」
「なんて迷惑な人達!」
妖魔の王子コースターは妃候補として鳩美を選んだが、しかしそれは鳩美の意思を全く無視したものだ。これと見た伴侶を力を誇示して自分のものとする、妃狩りという妖魔文化に正直言って鳩美は怒りすら覚えた。
エメラスが数個の魔力球を生み出した。ビット攻撃だ。前回の戦いではあれに翻弄されて敗北し、鳩美は敵に捉えられた。
だが、一度してやられたからと言って二度も後れをとる鳩美ではない。負けこそしたが、戦いから何も経験しなかったわけではない。
重要なのは目視ではなく魔力の感知だ。
魔力球が鳩美を包囲し、全周囲から魔力光線を発射する。鳩美はその隙間を縫うように回避した。だが、かなりギリギリだった。
反撃は出来ない。宇宙では魔法が使えないのだ。
魔法とは呪文を唱えて世界に影響を与える超自然技能だ。空気のない宇宙空間では声を使って呪文を世界に伝えられない。
だからこそのスペルホイールだ。表面ディスプレイに呪文を表示し、回転させる。それによって生じるマニ車效果で音声に頼らずに呪文を唱える。
一方で指向性テレパシーを使える妖魔人は声を出さずに呪文を世界に伝えられる。スペルホイールを搭載した魔法銃なしでは鳩美に勝ち目はない。
前の戦いで魔法銃とジャケットを破壊された鳩美はノーマルな宇宙戦闘服しか身に着けていない。今は逃げるしかないのだ。
その時、宇宙空間に穴が開く。何かがワープアウトしようとしているのだ。
「白百合号!」
ほうき星魔女学院の2年生用移動型コロニーシップが姿を見せる。
「鳩美! これを受け取って!」
夜子からの通信だ。何かが鳩美に対して転送され、宇宙戦闘服に装着された。
「これは、新しいジャケット!?」
鳩美が敵に捕まっている間に開発されたのだろう。
「これまでの戦闘データを元に、ジャケット・システム自体の小型化に成功したわ! 機動力のハイマニューバと火力のライトニングの機能を兼ね備えたそれは、ライトニング・ハイマニューバ・ジャケットよ!」
エメラスが再び攻撃してくる。
「新しい装備があるからって!」
鳩美はライトニング・ハイマニューバを装備した宇宙戦闘服のスラスターを全開にする。小型化されていながらその推力は全く衰えていない。先程よりも安々とエメラスの攻撃を回避できた。
鳩美は魔法銃のスペルホイールを高速回転させる。以前のライトニング・ジャケットで使っていたものは大型で取り回しが悪かったが、こちらもスラスター同様に小型化され、普通の魔法銃と同じ感覚で使える。
鳩美は魔法銃の引き金を引く。先程呪文詠唱したときよりも遥かに強力な電撃の魔法・雷の型が一瞬で十数発も連射された。
「そんな!」
エメラスは魔力盾で防御しようとするが、薄紙のように破られた。
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