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43話 エピローグ

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 気がつくと、俺は自分の部屋にいた。

 机の上には異世界へ行く前に持っていた通学カバンやらスマホやらが置いてあった。

 そういえば、アカシックと最初に出会った場所に置きっぱなしになってたな。多分、アカシックが届けてくれたんだろう。

 スマホを手に取る。数ヶ月も異世界にいたんだ、心配した家族や友達からメールやらチャットアプリやらに大量のメッセージが届いているかと思いきや、何もなかった。

 そもそも、スマホの画面に表示されている日時は、あの発狂異世界マニアックと遭遇したときから十数分しか経っていない。

 ポコンという通知音とともにチャットアプリにメッセージが届いた。

 メッセージの送り主は『アカシック』とあった。おいおい、いつの間に登録されたんだ?

『色々めんどくさくなると思って、転移した少し後の時間軸に送っておいたわ』

 息をするように異世界転移をやってのけるんだ。タイムトラベルくらいお茶の子さいさいってことか。

『あなたが異世界で手に入れた物品には少し細工を施しておいたわ。あなた以外に仁也の魔剣やブラスターガンは認識できない』

 なんでそんなことを? って、そうしないとやばいじゃん! どっちも完全に銃刀法違反になるから隠さないとやばい!

 あっぶねー、今更気づいたよ。俺はアカシックの気遣いに『ありがとう』とメッセージを返した。

 俺のメッセージに既読がついた数秒後、アカシックとのメッセージ履歴が完全に消え去った。俺の方から彼女に連絡を取ることはもう不可能だろう。

 窓のカーテンを開け、外の風景を見る。飽きるほど目にしているそれは、どことなく違って見えていた。

 それは見る側である俺のほうが変わったためだろう。人間として成長しかどうかはわからないが、異世界冒険を通じて俺は間違いなく変わった。

 明日は休みだ。丁度いいからあの人に会いに行こう。

「見違えたな」

 俺の顔を見るなり、仁也さんは言った。

「そうかな?」

「人間の成長は他人が見ないとわからないときもある」

 異世界から帰ってきた翌日、俺は仁也さんの家を訪問した。

 仁也さんの家は昔から続く由緒正しい剣術道場だが、今日は稽古日じゃないので道場には俺と仁也さんの二人しかいない。

「それで、今日はどうしたんだ。急に会いえないかと言いだして」

「えっと……」

 まいったな。漠然とただ仁也さんに会いたくなっただけで、特に理由はなかった。

「俺も異世界に行ったよ」

「……そうか。俺の仲間と会ったのか?」

 仁也さんにはすぐに通じた。

「ああ。みんな元気だったよ。クリエさんは仁也さんがいなくなって落ち込んでたけど、今は立ち直ってる」

「そうか。俺が言うべき筋じゃないが、良かった」

「彼女の気持ちに気づいていたのか?」

「薄々はな。だが、命を預けあった仲間の心を傷つける度胸はなかった。たとえそれが必要だと理解していても」

 それから俺は、異世界での体験を話した。

 それを黙って聞いている仁也さんは、時々なにかを懐かしむような顔をする。きっと、俺の話を通じて、自分の冒険のことを思い出しているんだろう。

「なあ考知郎、アカシックはなぜ俺たちを異世界へ送り出したと思う?」

「本物の異世界冒険を見たいからじゃないのか?」

「それはただの建前じゃないかと俺は思っている。俺の時もアカシックは時々現れたが、あいつの目はいつも観客の目ではなかった」

「確かに、言われてみれば……」

 アカシックはまるで何かを確かめるような目で俺を見ていたことがあった

「お前の話から察するに、アカシックは人に失望しかけていた。けど、腹の底では人を信じたがっていたのかもしれん。だから俺や考知郎で試した。都合の良い力を前にしても、つけあがらない奴もいると確かめようとした」

「そう思うからには、なにか心当たりでも?」

 仁也さんがそこまで言うからには、小さくとも根拠があるはずだ。

「アカシックは事あるごとに、俺へC.H.E.A.T能力を受け入れるよう言ってきた。異世界冒険にチートは不可欠ってな。自分の限界を追求したい俺は毎回断っていたが、アカシックはそれを嬉しがっている素振りがあった」

 仁也さんがC.H.E.A.T能力を拒否したのを喜んだ? それはつまり、安直に便利な力に手を出してほしくなかったから?

「でも、俺のときはC.H.E.A.T能力を受け入れるのを異世界冒険させる絶対条件にしていた」

「それは俺で便利な能力に安易に食いつかない奴もいると分かったからだろう。そして考知郎のときは、チートを手に入れてもそれを乱用せず、責任を果たすために使う奴もいると確認するためだと思う」

 アカシック本人と話ができない以上、この話は仁也さんの推測の域を出ない。でも、そう的はずれでも無いと思う。少なくとも、彼女は俺と仁也さんを使って、人の心にある何かを見抜こうとしていたのは確かだ。

 仁也さんはおもむろに立ち上がると、壁にかけてあった木刀を俺に投げ渡す。

「昔は小さかったお前とチャンバラごっこをしたものだな」

 そう言いながら、仁也さんは自分の木刀を持つ。

 懐かしい思い出が蘇る。一人っ子だった俺にとって、仁也さんは兄も同然の人だった。

「また、あの時を思い出して一勝負しようじゃないか」

 軽い口ぶりに反して、仁也さんから発せられる気配は、とても童心に帰ってチャンバラごっこをしようというものではなかった。

「お前は異世界を冒険して変わった。だが、言葉だけじゃ伝わらないものもある。それを俺に見せてみろ」

 木刀を構える仁也さんの目は、間違いなく剣士のものだった。

「俺は仁也さんとは違う。ズルチートで楽をして、旅行気分で歩き回っただけだ」

「遊び半分で異世界を冒険する男は、そんな目をしない」

 仁也さんの強い闘志に当てられ、俺は無意識に木刀を構えていた。C.H.E.A.T能力を失っても、異世界の経験は消えてない証拠だ。

 俺はようやく自分の本音を理解した。仁也さんに会いたかったのは、自分がどこまで強くなったのか確かめたかったからだ。

「行くぞ!」

「ああ!」

 俺と仁也さんは一歩踏み出して同時に木刀を振るった。

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