【小説ワンシーン集】悪魔から身分詐称スキルを授かった三流冒険者は勇者になって成り上がる②
静まり返った村の入口にトゥルスはいた。住民たちは全員、村の集会所に避難している。
彼の頭には花冠が乗っていた。
「おい、なんだそれ」
振り返るとトゥルスに身分詐称スキルを与えたあの悪魔がいた。
「村の女の子がくれたんだ。良いだろう?」
トゥルスは誇らしげに言ったが、悪魔は鼻で笑っただけだった。
「なんで逃げないんだよ。もうすぐこの村に来る敵はお前一人じゃ勝てないぞ」
「仲間達がもう一人の勇者を連れてくる。二本目の聖剣を持つあいつは俺と違って本物だから、代わりに倒してくれるさ」
「そういう事を聞いてるんじゃない。お前、このままだと死ぬぞ」
「だろうな。でも、援軍が来るまでの時間稼ぎくらいは出来る」
「お前は三流なりに考える頭があると思ったんだけどな」
「ははは」
悪魔の言葉に、トゥルスは乾いた笑いで返した。
「この花冠をくれた女の子、森で迷子になってたから俺が親のところまで送り届けたんだ」
「だから?」
「あの子はさ、仲間の力とか身分詐称スキルとかを利用せずに、俺が助けたんだ。あの子が俺に向ける感謝の気持ちは、俺が自力で手に入れた唯一の名誉だ。ここで逃げたらそれが消える。この名誉だけは命と引き換えにしてでも守りたい」
「あ、そう。じゃあ死ねよ」
悪魔はトゥルスに心から失望し、立ち去った。
それから少しして、敵の姿が見えてきた。
トゥルスは聖剣を抜いた。
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