37話 旅の終わり2
もしかするといつもの塩対応でバッサリ切り捨てられるかと思ったが、意外にも彼女は自分の体験談を話してくれた。
「私の初任務は、この世界のような中世ヨーロッパのような文化を持っていた並行世界です。そこでは白雪姫や人魚姫などのおとぎ話のお姫様が実在していました。どういうわけか彼女達は全員が武闘家であり、武闘会で優勝したものが次の女王になるという変わった決まりがありましたよ」
「へ、へえ」
なんか予想の斜め上が来たぞ。
「逆にトラベラーの世界はどんな感じなんだ?」
「1番の特徴は三つの人種がある事ですね。私にような既存の人種を定命族、遺伝子操作で老化しない体を持つ不老族、そして魂が宿る機械の体を持つ機人族です」
他にも色々教えてくれた。科学力の向上で多くの単純作業が自動化されたが、それによって逆に手作業に芸術性や付加価値を見出す人々が増えている。国家間の対立は殆どないが、しかしそれぞれの国内での定命・不老・機人の3人種の対立が大きくなっている。並行世界への民間旅行を実現するために法律の緩和が検討されているなどなど。
一般人が新聞を読めば知りうる情報に限るが、俺に色々と教えてくれた。
「それにしても急に教えてくれるようになったな。前なら機密とか規則とかで教えてくれないのに」
「上もこの短い期間で考えが変わりました。あなたに伝えても良い情報の範囲も広くなっています」
「なるほど」
それから雑談はそこそこに俺たちは眠りについた。
翌朝、俺はけたたましい轟音で目覚めた。
見れば大型の航空機が垂直着陸しようとしてるところだった。
トラベラーは一足先に起きていた。
「おはようございます」
「あれでRGを運んでいるのか?」
その航空機はよく見るとエンジンらしきものがなく、本体と翼だけだった。どういう仕組みわからないが、何らかの形で空に浮く力を発生させているのは確かだろう。
航空機が草原に足をおろすと、入り口のハッチが開いて中から二人出てきた。
一人はこの異世界のエルフと同じ耳の形をしてた男で、もう一人は小柄な少女型ロボットだった。おそらく昨夜トラベラーが話していた不老族と機人族だろう。
「鳩ちゃん、じゃなかったトラベラー!」
機人族の女性はトラベラーに抱きつく
「今回はかなりの長期任務だから大丈夫? 体調を崩してたりしてない?」
機人族の少女の顔は、普通の人間と見分けがつかないほど精巧で、心配そうな表情を浮かべていた。
彼女は見た感じ、十代前半くらいに見える。そんな人がずっと年上に見えるトラベラーに対し、まるで親戚のおばさんのように振る舞う。
「ええ、大丈夫ですよ。三四子さん」
「顔色も悪くないし、そのようね」
トラベラーが三四子と呼んだ機人族の女性は同僚以上に親しいようだ。
「トラベラー、彼が報告にあった調月考知郎か?」
親しみやすそうな三四子さんと違って、不老族の男はなんか顔が怖い。今にも「やはり人間は愚か、滅ぼすしか無い」とか言いそうな感じだ。
「だめよたっちゃん。そんな顔しちゃ。また誤解されちゃうわよ」
「む、すみません」
たっちゃん。ハンサムエルフがたっちゃんと呼ばれるさまはいささかシュールだった。
「あらいけない。自己紹介がまだだったわね。私は九十九里三四子。調査員の装備を整備しているわ」
「津田達哉だ。あの航空機のパイロットを務めている」
「調月考知郎です」
名前から察するに、二人共日本人国籍なのかな。
「要望通り、RG本体に加えてウェポンフルスタック装備を持ってきたわ」
「助かります。半ば申請を却下されると覚悟していましたが」
「失敗してアカシックにそっぽ向かれるリスクを追うくらいなら、派手にやってしまおうというのが上の考えでね。まえまえから準備されたたのよ。ともかく、乗って乗って」
三四子さんがトラベラーの手を引いて航空機の中に入っていく。
しばらくすると、航空機の背面が開いて中から人型兵器が姿を表す。大きさは鉄人防壁街の巨大ゴーレムと同じ8mクラス。あれが第2並行世界でつくられたロボティクスジャイアントか。
ぱっと見た感じだと、妙に人間的で人型ロボというよりも鎧を着た巨人に近い印象を受ける。
RGは航空機から出てくると、その場で簡単な体操を始めた。
「あれは何をしているんです?」
意図が読めず、俺は隣りにいる津田さんに尋ねる。
「我々のRGはパイロットの意識が機体に憑依する操縦システムを採用している。あれはパイロットの意識どおりに機体が動くかの簡単なチェックさ」
よく見ればロボット兵器にしては不自然なほどに滑らかで、かつ女性的な動きだ。
なるほど、さっきRGを妙に人間的に感じた理由がわかったぞ。パイロットの意識が宿って動くなら、おそらく操縦しやすいように構造を人体とほぼ同じにしているのだろう。
目の前のRGは女性的にも感じるから、トラベラーの体格に合わせて骨格やら手足の長さの比率やらを調整しているかもしれない。
確認体操が終わった後、機体本体以外の装備の取付けに入る。原理は全く不明だが、パーツ自体がひとりでに浮遊して装着されていく。
まずは足や腕、胴などの機体各部に追加装甲が取り付けられる。特に肩と腰の追加装甲にはミサイルランチャーが内蔵されていた。
次にライフル、バズーカ、ガトリング、大剣、シールドが二つずつ現れる。
ライフルは両手に持ち、シールドは腕に取り付ける。残りの武器は背中から翼のように左右へ突き出たレールに取り付けられた。
全身に限界まで武器を身に着けた姿は確かにウェポンフルスタックという名前がふさわしく感じる。
「ああ、やっぱりこういうのは良いわねえ」
作業を終えた三四子さんがこっちに戻ってきて、機体全体をうっとりした表情で眺める。
「バズーカのストロングワークスB45無反動砲は、あの無骨さがたまらないわね。弾雨35号回転機関砲の直接攻撃にも対空迎撃にも使えるし、ヒュージカッターNo7は50年も性能が陳腐化しないベストセラー。GD99シールドは1回限りなら核爆発にも耐える傑作。肩と腰のスズメバチマイクロミサイルは追尾性も威力もピカイチ。それと手に持っているMk3フォースガンから発射されるフォースエナジー弾はよほどの防御力がなければまず防げないわ。こういうのって左右で違う装備を搭載するときもあるけど、私は同じのを二つ付けるシンメトリー派ね。つかちゃんも男の子だからこういうの大好きよね?」
「え? え、ええ。まあ」
早口で独り言をつぶやいてた三四子さんに突然話を振られて戸惑う。つかちゃんって俺か。一瞬わからなかったぞ。そして、たしかに俺はこういうのが大好きだ。フルアーマーとか最終決戦仕様とか燃えるよな。
「ところで九十九里さん、さっき津田さんから聞いた話ではパイロットの意識が機体に乗り移って操縦するって話ですが、そうなると武器を扱えるのは二本の腕だけですよね? あんなに持っても使いこなせないのでは?」
「良い質問ね。実は私達のRGの携行装備はそれ自体が攻撃ドローンとして運用できるの。要は手で持たなくても、武器が宙に浮いて攻撃してくれるってわけ」
「へー、どうやって動かしているんです?」
「キネシスマニューバシステムという科学技術で念力を発生させる仕組みを使っているわ。これの機体を飛行させたり、複数の装備を同時に使ったりできるの。そのうえ、パイロットは念力の細かい動きまで考えなくとも、システム側が良い感じに気を利かせて補助するからそんなに難しくないわ」
便利なもんだな。まあ、そこまでしないと、人が自分の体ではない人型の物体を動かすのは不可能ということか。
「そうそう、RGのコクピットはものすごく狭くて一人しか入れないから、つかちゃんは機体の背中側にしがみついていて。それ用の手すりを用意しておいたわ」
「はい」
言われたとおり、俺はトラベラーが乗るRGをよじ登る。言われていた手すりにしっかりしがみつく。
どう考えたって危険行為だが、俺は死なないから問題ない。
『調月さん、準備はいいですか?』
外部スピーカーからトラベラーの声がする。
「ああ、いつでも良いぞ」
●Tips
九十九里三四子
機人族の女性。製造番号はGX09934。第2並行世界において機人族は自分の製造番号をもじって名前を決める傾向が多い。
年齢不詳だが、少なくとも100歳を超えている。
趣味はロボットアニメ鑑賞で、スーパ-系もリアル系も大好き。
津田達哉
不老族の男性。年齢は53歳だが、寿命がない人種なので若手として扱われる。
表情を作るのが苦手なので誤解されがちだが、本当は穏やかで善良な青年。
航空機マニアが高じて今の職についており、旅客機から軍用機まで操縦できる。
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