【小説ワンシーン集】悪魔から身分詐称スキルを授かった三流冒険者は勇者になって成り上がる①
フェイは3流の男だ。冒険者になって10年、才能も無ければ努力もしなかった彼は誰からも見下された。
「そんなお前に、身分詐称スキルをくれてやる」
ある日、悪魔がフェイの前に現れた。
「なぜそんな提案をする。俺に何をさせたい」
フェイには唯一、人よりも秀でている面がある。自分を騙そうとする者、利用しようとする者の思惑に敏感だった。
「聖剣を抜け。身分詐称スキルが有れば簡単だ」
「それでお前に何の得がある」
「俺は人が尊いと思ってるものを馬鹿にするのが大好きだ。だから、清らかな心の持ち主しか引き抜けない聖剣を、どこにでもいるクズのお前が引き抜けば、ものすごく楽しい」
クズ呼ばわりされたフェイは顔をしかめるが、言い返すような度胸はなかった。
「さあ、どうする? スキルを受け取るか?」
「……」
「別に断っても良いんだぞ? お前を選んだのはたまたま目についただけなのだからな」
フェイは持ち前の直感で、悪魔の言葉に嘘はないように思えた。本当に、聖剣が間違った者の手に渡るのを見たいだけなのだ。
「スキルをくれ」
「良いとも」
悪魔はニヤニヤ笑いながら身分詐称スキルをフェイに授けた。
それからフェイはすぐにスキルを使って別人へ変身し、顔も声も違うトゥルスという男になった。
トゥルスは王国の首都にある聖剣に挑んだ。
台座に突き刺さった聖剣の柄を握った時、前に挑戦したときのことを思い出す。その時は、聖剣さえ手に入れれば、自分の人生が全て変わると思って引き抜こうとしたが、出来なかった。
二度目の挑戦はあっけなかった。身分詐称スキルは聖剣の認証をすり抜け、トゥルスはあっさり手に入れた。前回に拒絶されたことなど無かったことのように。
「あの男が聖剣を抜いたぞ!」
「勇者だ!」
「ついに勇者が現れたんだ!」
待ち焦がれた名声はトゥルスにとって、まるで乾いた砂に降り注ぐ大雨のようだった。
飢えが満たされる。
最後にそうしたのはいつか分からなかったが、トゥルスは久々に笑みを浮かべた。
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