聖火の守護者
俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。
「聖火を渡せ。我々は全日本神聖オリンピック委員会(AJSOC)の者だ」
ヤバイ目付きをした連中が俺の家の玄関前に集まってる。
「あんたら聖火をどうするつもりだ」
「無論、オリンピックを今すぐにでも実行するため。我々は開催延期を認めない」
「今すぐって……今はウィルスで世界中が大変な時じゃないか」
「だからこそだ。オリンピックを実行すれば人類に幸福がもたらされる。ウィルスなどたちどころに消滅するだろう」
「冗談きついぜ」
だが連中はマジのマジだ。AJSOCはオリンピックが人類に幸福をもたらすと信じてるカルト宗教で、その思想の根底には1964年に開かれた東京オリンピックがある。
1964年東京オリンピックは好景気をもたらすとともに、インフラ整備が進み日本は各段に過ごしやすい国になった。連中はそれを曲解し、オリンピックを行えば、自分たちに都合に良いことが何でも起きると思い込んでる。
「待て! オリンピックを開催させてなるものか!」
「なんだ貴様らは!?」
AJSOCと同じくらいやばい目付きをした連中が現れた。
「我々は日本オリンピック撲滅同盟(JOEA)だ!」
コイツらもカルト宗教だ。きっかけは不明だがオリンピックは悪魔の儀式だと思いこんでいて、妨害のためならば選手の暗殺や爆破テロも辞さない危険な連中だ。
「ふざけるな! 聖火の光なくして世の中に蔓延しているウィルスは駆逐できない」
「何を言うか! このウィルスこそ、オリンピックによって生み出された病魔だ。聖火を消さなければ人類は滅亡するぞ!」
どちらのカルト宗教も一切譲るつもりはなさそうだ
「ええい、話にならん。まずはJOEAから始末するぞ!」
「AJSOCに神の鉄槌を!」
発狂オリンピック信奉者と反オリンピック偏執者たちがドンパチやり合うのをよそに、俺は自宅へと戻っていった。
「こちらオリンピア1。予定通り、AJSOCとJOEAが戦闘を始めた。部隊の準備は問題ないか?」
「こちらネメアー2。準備は完了している。両者の戦闘が終了次第、生き残った側を始末する」
オリンピックを廃止に追い込むJOEAは当然だが、勝手にオリンピックを実施するAJSOCも許してはならない。
偉大なる国際オリンピック委員会の意思こそが絶対の正義。それが俺たち国際オリンピック支援戦線(IOSF)が掲げる理念だ。
俺の家に聖火が一時保管されたのも偶然ではない。全ては二つの害悪を粛清するために、入念に仕組んだことだ。
聖火は必ず守ってみせる。俺は粛清に備えて自宅に隠していたアサルトライフルの整備を始めた。
おしまい
これはなんですか?