【小説ワンシーン集】追放冒険者争奪戦①
「ジャック、足手まといのあんたにはパーティーを抜けてもらうわ」
「待ってくれ、せめて俺の強化スキルなしでどこまでやれるか確かめてからにしても……」
「女々しい言い訳なんてしないでよ!」
ケイトは拳をテーブルに叩きつけた。大声を上げたせいで酒場の客達からの視線が痛い。これもジャックのせいだとケイトはますます腹がたった。
「私達はみんなバーテックス・スキルに覚醒したわ。あんた無しでは大丈夫ともう分かってる!」
「そうだよ」
仲間のダンが同意する。
「多少弱体化したって、役立たずのお前を守る手間が省けるんだからむしろプラスだ」
「分かったら、とっとと失せなさいよ」
もう一人の仲間、ウェンディが飲みかけの酒をジャックの顔にぶちまけた。
ケイトは一瞬だけれどやりすぎと思ったが、こうでもしないとジャックはパーティーを抜けないだろうと思い、ウェンディを咎めなかった。
「……分かった。今ままで迷惑をかけてすまなかった」
ジャックが立ち去った直後、ケイトはいきなり体が重くなったように感じた。
(足手まといでイラつく事もあったけど、幼馴染みを追い出すのは良い気分じゃないわね)
ふと、誰かが言い争っている声が聞こえた。
「どけ! 邪魔すんじゃねえ!」
「何言ってんのよ、ジャックは前からずっと私が目をつけていたのよ!」
「社会利益というものをお考えください。彼の才能は教会で発揮されるべきです!」
酒場の入り口付近で冒険者達が揉めていた。
「ねえ、あれ止めほう方がいいんじゃない。そこらの冒険者ならともかく、あいつらが本気でケンカするのはまずいよ」
ウェンディの言葉はもっともだ。揉めているのはS級パーティーのリーダー達だった。彼らはバーテックス・スキルを保有し、トップ冒険者とも言われている。
戦士ガーフィールド。
槍兵ロナルド。
魔法使いクラリス。
弓兵マリアンヌ。
盗賊レックス。
聖者レベッカ。
世間では魔王を倒せる可能性があると言われている実力者だ。彼が本気で叩けば、こんな酒場など跡形も無く吹き飛んでしまう。
同じトップ冒険者としてケイトは見過ごせなかった。
「ちょっとあなた達、何をやってるの。トップ冒険者として恥ずかしくないの」
揉めていたトップ冒険者達がケイトを見る。どう言うわけか、彼らは嘲りや哀れみを含んで眼差しを向けてきた。
「ジャックがいなきゃ何もできないザコは引っ込んでろ」
ガーフィールドがめんどくさそうに言った。
ケイトは頭に血が上った。
「ザコですって!? 私だって剣士のバーテックス・スキルを持っているのよ!」
「まだ気づかないの? 冒険者の腕輪を確認してみなさいよ」
クラリスが呆れたように言った。
嫌な予感がしたケイトは冒険者の腕輪を起動する。このマジックアイテムは冒険者の身分証と同時に現在の能力を数値化して保有スキルを確認できる。
「え!? そんな! う、嘘よ! きっと腕輪が故障してるに決まってるわ!」
「故障なわけねーだろ。ギャーギャーうるせえなあ」
レックスの声がケイトの耳には届かなかった。
ケイトの目はスキル欄に向けられている。朝見た時は確かに剣士のバーテックス・スキルがあったはずなのに、今表示されているのは剣術のノーマル・スキルだ。
ケイトは仲間の方を振り返る。同じように腕輪でステータスを確認していた彼らの顔を見て、結果は察しがついた。
「ケイトさん、あなた達は取り返しのつかない過ちを犯したんです」
レベッカが諭すように言う。
「あなたのパーティーはジャックさん以外の全員が”同時”にバーテックス・スキルに覚醒しました。同時に、ですよ? それを不自然とは思わなかったのですか?」
「ま、まさか……いや、でもそんなはずは」
現実から目を背けようとするとケイトにマリアンヌが止めを刺すような言葉を投げつける。
「覚醒したのはあんたらじゃなくてジャックだったって事よ。あいつの強化スキルは、仲間のノーマル・スキルをバーテックス・スキルに進化させるものに成長したってわけ」
突きつけられた現実にケイトは言葉を失い、呆然とした。
「で、どうすんだよ。グダグダ言い争っても無駄だ。面倒だからもう一番強いやつがジャックを仲間にするって事にしようぜ」
ガーフィールドの言葉は短絡的だが、しかし互いに譲れないトップ冒険者にとって唯一の解決策だった。
「どうやらそれしか無いようですね」
教会所属のレベッカが同意したのでトップ冒険者の中で決定事項となった。
「問題はどこで戦うかですが。我々、トップ冒険者は人々の正義と道徳の代表者です。市民を巻き添えにするわけには行きません」
「だったら私にツテがある」
ロナルドが言う。
「ギルドの幹部に知人がいる。訓練用の闘技場を借りておこう。そこなら全力で戦っても問題あるまい」
こうして追放された冒険者をめぐり、トップ冒険者達によるトーナメント戦が開催される事となった。
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