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7話 出会い2

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 「私が彼と出会ったのは5年前のことよ。当時は魔王軍が魔大陸からアドル大陸への侵攻があったわ」

 5年前……そういえばそのあたりから仁也さんの雰囲気が少し変わったような気がした。

 ある日を境に大人になったような気がした。責任を背負い、きっちりと務めを果たす”本物の大人”に

 きっと異世界の体験がそうさせたんだろう。

「私は〈魔力剣製〉と言う魔力で剣を作るレアスキルを持っているの。でも、〈剣術〉スキルがないせいで、レアスキルが無意味な無能とされていた。そんな時に手を差し伸べてくれたのがジンヤだったわ」

 クリエさんは瞳を潤ませながら懐かしそうに語る。

「魔王を倒す力になってほしいと、彼は私に一から剣術を教えてくれたの」

「仁也さんは人に教えるのが好きですからね」

 クリエさんは「そうね」と微笑んだ。

「お陰で〈剣術〉スキルなしで一人前の剣士になれたわ」

「その後はどうしたんですか」

「ジンヤと一緒に魔王を倒す仲間を探したわ。新しく加わったのはマテリア・マテルとマーティン・オルトという男よ。偶然にも、彼らもパーティーから追放されていた」

 追放系の異世界冒険みたいなのは実際に起っているんだな。

「苦労されていたんですね」

「私達はまだ苦労で済んでいたから良かったわ。ジンヤの場合はひどかった」

「何があったんですか?」

「彼はもともと魔王討伐を目指す勇者のパーティーの一員だったけど、危機に陥った時に連中から捨て駒にされてしまったのよ」

「最悪ですね」

 俺は思ったことを率直に言った。

「実際、最悪だったわ。その後、彼を見捨てた勇者のパーティーは、あろうことか人類を裏切って魔王軍についたの」

 勇者が実は悪党だった。異世界ファンタジーの定番の一つだ。

「汚物より卑しい男グレント・ガードナー、知的生物の面汚しミディック・ミディアン、最悪の醜聞ホリー・ホワイト、そしておぞましき邪悪のジャスティン・ジャックマン。人々は彼らを第二の魔王軍と呼んだわ」

 すげー二つ名だな。よっぽど異世界の人たちに嫌われてると見える。

「それで貴方達はどうやって敵を倒したんですか」

「特別なことは何もしていないわ。自分たちは何をできるのかよく考えて、それを実践しただけよ。それはあたり前のことだけど、人間そういうものほど気づかないものね。この世界とは少し違う考えを持つジンヤの助言がなければ、思いつけなかった戦い方はたくさんあったわ」

 クリエさんは腰の剣を愛しそうに撫でる。視界の端では彼女のしっぽが嬉しそうに揺れていた。

「この剣がまさにそれね。これは元々ジンヤの為に作った剣なの。私が〈魔力剣製〉で生み出した剣を、マーティンの製作系コモンスキルとマテリアの知識を元にマジックアイテムとして改造した。その結果、魔法を斬れる魔剣となったの」

 俺は初めて剣を買った時、武具屋の店主が言っていたことを思い出す。日本刀風の剣が増えたのはその魔剣が理由か。

「ジンヤのおかげで、私達は今まで気づけなかった可能性を発見できた。それでも、魔王と第二の魔王軍との戦いは厳しかったわ。今こうして生きているのが不思議なくらい」

 人類の希望であるはずの勇者が敵に回った絶望的な状況で、仁也さんは何を思ってたのだろうか。

 あの人は正義感が強くて、それでいて強さの求道者でもあった。悪への義憤と、強敵と戦える喜び、その両方を持っていたかもしれない。

「そして戦いが終わった後、ジンヤは魔剣を私に譲って元の世界へ帰っていったわ。当時の私は、ジンヤへの想いを自覚しながらそれを伝えられなかった。彼の心が別の人に向いてるのはわかっていたから」

 俺は複雑な気持ちだった。クリエさんに同情しつつも、彼女が仁也さんと結ばれるべきだとも思えないからだ。

 結婚してからの仁也さんはとても幸せそうだった。

「でも今となっては、恋に敗れるのを承知で想いを伝えるべきだったわ。そうすれば5年も未練を抱えてはいなかった」

 今のクリエさんは長い苦痛から解放されたような、疲れているが楽になったような様子だ。

「あなたがジンヤの今を教えてくれたお陰で、ようやく私も割り切れそう。ありがとう」

「俺は事実を伝えただけですよ」

 俺はただ介錯しただけだ。生ける屍のようになっていたクリエさんの恋心を。

「あなたに会えて本当に良かったわ。それじゃあ私はこれで」

「あ、待ってください」

 席から立つクリエさんを呼び止める。

「俺に剣術を教えてくれませんか。仁也さんがあなたにしたように」

 クリエさんは仁也さんとの出会いを通じて、新しい価値観に触れた。

 多分この世界で俺に剣術を教えてくれる人はこの人だけだ。

「教わったことをそのまま伝えるだけなら良いけれど……」

「それで構いません」

 こうしてしばらくの間、俺はクリエさんの元で剣の修行を始めた。

「まずあなたには活性心肺法というのを覚えてもらうわ。これはジンヤが編み出したスキルに頼らない肉体強化よ」

 活性心肺法はまず魔力を心臓と肺に集中させる。そうすることで血流を通じて魔力が全ての細胞に浸透し、筋力、瞬発力、免疫力、視力、聴力などなど、人体の性能そのものが上がる。

 仁也さんやクリエさん、それに残る二人の仲間もこの活性心肺法を習得し、魔王と第2の魔王軍討伐において大いに活躍したという。

 俺はイレギュラーGUの力を借りて活性心肺法を3日で習得した。

 それから先は本格的な剣術修行が始まった。

 クリエさんは仁也さんから剣を習ったというが、彼女の剣術は俺が知る仁也さんのとは少し違っていた。多分、活性心肺法を前提に仁也さんはアレンジを加えたんだろう。

 クリエさんの指導はとても分かりやすかった。

 昔、仁也さんから少しだけ剣術を教わった時もこんな風だったな。

 クリエさんの指導力は仁也さんの教えが正しく受け継がれてる証拠だ。

 さらにはイレギュラーGUの力も加わって、俺の腕はメキメキと上がっていった。

「もうあなたに教えられる事は何も無いわ。すでに私以上の剣士よ」

 修行開始から10日目、俺はクリエさんから免許皆伝を受けた。

「驚くほど飲み込みが早いわね。私は活性心肺法と剣の扱いを身につけるのに1ヶ月もかかったのに」

「1ヶ月でも凄いですよ。俺の世界は誰もスキルを持っていないから、長い時間をかけて覚えます」

「ジンヤも同じことを言ってたわね」

 クリエさんはいまいちピンと来ないようだ。生まれたときから技術や知識が身につく異世界ではその辺りの感覚が違うのだろう。

 もしかするとスキルと才能があるのかもしれない。だがなまじスキルがあるせいで自分の才能を調べるという考えがないのだろう。

「コウチロウ君、卒業祝いにこの剣を受け取って」

 クリエさんは腰の魔剣を俺に差し出す。

「大切なものでは?」

「終わった恋心とはちゃんをお別れしなくちゃ」

 魔剣はクリエさんの思い出の品であると同時に未練の象徴だったのだろう。

「分かりました」

「それとこれも。私の仲間だったマテリア・マテルへの紹介状よ。冒険者として上を目指すなら、彼の知識が役立つはず」

「何から何までありがとうございます」

「気をつけて行ってらっしゃい」

 クリエさんに見送られて俺は次の街を目指した。

●Tips
クリエ・ワークス
 剣仁也と共に魔王を倒したキャトの女性剣士。
 レアスキル〈魔力剣製〉を持つが、〈剣術〉スキルを持たないために周囲からは評価されなかった。
 しかし活性心肺法とスキルに頼らない剣術を習得した今では大陸最強の大剣豪となっている。
 彼女に〈剣術〉スキルが付与されなかったのは才能がなかったからではない。
 剣の天才だからこそ、わざわざ〈剣術〉を付与するより他のスキルが望ましいと、■■■■■■■■が判断した。

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