29話 英霊の墳墓2
グレントがまごまごと俺たちを探しているうちに、森の何処かにいるミディックとジャスティンを無力化する。
俺は右手に魔剣を左手にブラスターガンを持って森の中を駆ける。今回の敵は遠距離で攻撃してくるから、剣は敵の魔法の迎撃に使う。
炎の鳥が木々の間から飛び出す。ミディックの攻撃だ!
初撃と同じく俺は魔剣で敵の魔法攻撃を切り払う。
敵の攻撃は終わらない。炎の魔法:鳳の型が連射された。
魔剣で敵の魔法を迎撃しつつ、俺はブラスターガンを撃つ。もちろんトラベラーも援護射撃してくれた。
だが、何度撃っても氷の壁で防御されてしまう。
……妙だな。ジャスティンの姿がない。
ミディックは魔法使いだ。戦闘力を十全に発揮するためには接近戦に長けた味方、つまりジャスティンが必要となる。
味方を囮にして不意打ちを狙っているのか? ひとまず注意しつつ、ミディックを倒すのを優先しよう。
ミディックは魔法を連射してこちらを近寄らせないようにしてるが、距離は次第に縮まっていく。俺もトラベラーも強力な攻撃魔法は無いものの、活性心肺法で身体面ではやつに勝っている。
そろそろ銃ではなく剣の間合いだ。
十分に近づきさえすれば、ミディックは自滅を恐れて範囲の広い攻撃ができなくなる。それに魔剣なら氷の壁で防御されても、即座に無力化して攻撃を通せる。
そしてついに刃が届く距離になり、俺は魔剣を振るう。
「追い詰めたぞ!」
実のところ、俺はミディックを追い詰めたと少しも思っちゃいない。何処かにジャスティンがいるはずだし、そうでなくともミディックだって隠し手の一つくらい持っているはずだ。
今の言葉はいわばフェイント。相手に俺が油断していると思い込ませ、隠し手を誘発させるためのものだ。
俺が叫んだ後、ミディックは自ら間合いを詰めてきた。
その踏み込みは魔法使いとは思えないほどの俊敏さだった。そしてミディックは隠し持っていた短剣で俺の喉笛を切り裂こうとした。
俺の魔剣とミディックの短剣がぶつかり、火花を散らす。
「さすがに油断しないわね」
「お前が〈短剣術〉スキルを持っているのは知ってる。ホリーの強化薬と組み合わせて使ってくると警戒するのは当然だろう」
「でしょうね」
この世界の人間は強力なレアスキルがあれば、コモンスキルを持っていても使わない傾向にある。ミディックにとっての〈短剣術〉がそれだ。強力な魔法を数多く使えるのだから、わざわざ短剣で戦う必要もないと、5年前に仁也さんが戦ったときは一切使わなかった。
けど、今は使わない理由など無い。
強化薬は凄まじい効果持つ。武術を与えるスキルを持たないホリーですら、AAA級冒険者に匹敵する力を見せた。
おそらくジャスティンがミディックの護衛をしないのも、彼女が自力で身を守れるようになったからだろう。
俺とミディックは弾かれるように離れる。
「その短剣、毒を塗ってるな? ホリーの麻痺毒か」
「ご明察! お前を無力化するのに麻痺毒が使えるのは証明済みだからね」
どうやらホリーは以前に仲間へ自分が作った薬を渡していたようだ。
「どうやって俺たちの動向を見ていた?」
あの場所には俺とトラベラーとホリーの3人しかいなかった。
「教えるわけないでしょ。ま、説明したところで低知性の輩が理解できるわけないけど」
腹の立つやつだ。まあここは異世界だ、魔法なりマジックアイテムなりを使ったんだろう。
ミディックは上空に向けて炎の魔法を放った。ここに俺達がいるとグレントに知らせたか!
「トラベラー!」
「グレントは任せてください!」
まさかミディックごと爆撃してこないだろう。奴らは死なないとはいえ、その場で復活できるわけじゃない。いくらなんでも味方を即戦線離脱させる真似はしないはずだ。
早速グレントが現れ、ミディックを巻き込まないよう、爆弾化していない矢を放つ。
トラベラーがグレントを迎撃をする。
今のうちに、ミディックを倒さないと。
だが……ジャスティンは一体何をしている? いつまでたっても姿を見せない。ここで負けたら、自分たちの蘇生法が潰されるんだぞ。
何を考えているんだ。
俺は未だ姿を見せぬ敵に不気味さを感じていた。
ミディックの振るう短剣の切っ先が俺の額ぎりぎりをかすめ、前髪を断つ。
あ、あぶねえ! くそ、ジャスティンを警戒したいがそれに意識を向けるほどの余裕がない。
〈短剣術〉スキルとホリーの強化薬が合わさったミディックは世界最強の短剣使いと言っても過言ではない。同時に、最強の魔法使いでもあるから厄介だ。
短剣を右手で操りつつ、ミディックはあいた左手から氷の魔法でツララを射出する。
地味な攻撃だが、上手い。手のひらを俺の視界に入らないよう魔法を使った。肩の微妙な動きで察知していなかったら命中していただろう。
俺は上半身をわずかに反らせてツララを回避しつつ、即座に繰り出された短剣を魔剣で防御した。
短剣の攻撃こそがミディックの本命だ。魔法では俺を倒せないからな。
かと言ってまるっきり敵の魔法を無視するのも駄目だ。復活するまで動けなくなるほどのダメージを受ければ、そのときに麻痺毒をくらって無力化される。
そのあいだにトラベラーが殺されれば、俺にとっての敗北だ。
ミディックがバックステップしつつ、炎の魔法:火球の型を放つ。爆発による衝撃でこっちの体勢を崩すつもりだろう
当然、俺は魔剣で切り払おうとしたが、それよりも早く魔法の火球が爆発した。
ミディックが起爆させたんだ。しかし、このタイミングで起爆させても影響は殆どないはずだが?
直後に足が動かなくなる。いつの間にか氷によって地面と固定されていた。
火球の起爆は目くらましか!
ミディックが会心の笑みを浮かべながら地面を蹴って刺突を繰り出す。
避けられない……なら!
俺は左手でミディックの短剣を受け止めた。手の甲から刃が突き出る。
麻痺毒が浸透し、左手の感覚がなくなっていく。それが全身へと広まる前に俺は即座に左腕を剣で切断した。
ミディックがぎょっとする。そりゃそうだろう。不死だろうと自分の腕を切り落とすのは根性がいるからな。
即座に覚悟を決められるのも、今までの経験がイレギュラーGUで数百倍に増幅されて俺を精神的に成長させたからだ。
短剣に突き刺さったままの俺の腕が重しとなり、ミディックはぐらりと前のめりに体勢を崩す。
攻撃のチャンスだ。俺は無事な右手で握る魔剣の柄をミディックのこめかみに叩きつけた。
ミディックがふっとばされている間に、俺は両足に力を込めて拘束の氷を強引に砕く。切断した左腕も再生を終えていた。
相手の方はと言うと流石に接近戦用のスキルを持っているだけあって、鮮やかに受け身をとった後、即座に反撃してきた。
短剣を順手から逆手に持ち替えてアッパーカットのように振り上げる。
俺は状態をそらして避けるが、ミディックは振り上げた直後にそのまま心臓めがけて探検を振り下ろそうとする
だがこれは予想済みだ! 俺は再生したばかりの左手でミディックの手首を掴んで短剣を止める。
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