【小説ワンシーン集】マイティ・エルフ・スーパーパワー①
ころりとゴブリンの頭が転がり、グレンの靴先に当たった。生首と目があった。
「き、君はなにをやったんだ?」
グレンが震える声で仲間になったばかりのエルフのエステルに問う。
「え? なにって、ゴブリンの首を手刀で刎ねただけですが?」
エステルがキョトンとした顔で答える。
彼女は辺境で信仰されている鍛身教の神官だ。このあたりで最も普及している光心教とは違う宗教だが、神官である以上は回復の魔法が使えるので、グレンは特に気にすることなく彼女をパーティーに迎えたのだ。
そして今は肩慣らしにと請け負った魔物討伐の仕事の最中だ。
「……普通、冒険者神官は回復が専門で、直接戦ったりしないぞ」
「ええ!?」
エステルは驚く。
「いくら回復が専門だからって、戦いに参加する以上は素手でゴブリンを倒せるくらいの戦闘力がなければ危険すぎるのでは? あ! もしかして光心教ではそういう教義なのですか?」
「いや~、そういうわけじゃないけど」
「でしたらなぜそのような危険行為を?」
「ううん」
グレンは答えられなかった。他の仲間に目を向けても、彼らも答えを持たず、ただ首を横のふるだけだ。
言われてみると、確かになぜ冒険者神官が戦闘力を持たずに冒険しているのか分からなくなってきた。
「と、とにかくエステルは前に出なくてもいいよ。回復役が怪我をしたら元も子も……」
その時、エステルの顔がこわばる。
「皆様、後ろです!」
振り返ると3メートルはあるオークが金棒を振り上げていた。
グレン達はとっさに飛び退って攻撃を避けた。だが、金棒は何らかの魔法が付与されていたようだ。地面に叩きつけられると同時に電撃波が生じてグレンたちを感電させる。
グレン達は今の攻撃で体が一時的に麻痺してしまった。唯一、少し離れていたエステルだけが無事だ。
「エステル、逃げろ」
グレンは言う。エステルは非力なエルフの神官だ。オークに叶うはずがない。
エステルの姿が消える。直後、突風がおきた。
グレンの目には、素手でオークの心臓をえぐり取ったエステルの姿が映っていた。
「皆様、ご無事ですか!? 今、魔法で治しますね」
エステルが祈りを捧げるように回復の魔法を発動させる。それはまさしく神官らしい姿であり、グレンはある意味ほっとした。
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