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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter67

インディジョーンズ  最後の聖戦
~ フォード  クーガ タイタニウム  2016年式 ~
Indiana Jones and the Last Crusade ~ Ford Kuga Titanium 2013 ~

急速に発達した低気圧は 
大都会を 3600秒で  白一色に染め上げた
こぼれんばかりの笑顔で 
雪の中を走り抜けていく 子供たちの向こうで
一足進むたびに くるみ割り人形を踊る バレエダンサーのように
腕を振り回して 転倒を回避しようとする 大人たち 
正月番組より 数段面白い
大自然への適応能力は どうやら年齢を重ねるごとに低下していくようだ

Dosaaaa!

突然 街路樹に積もった ソフトボール級の雪塊が 
頭上に落ちてきた
僕も適応能力が薄れた側だったことを 思い知った

進化したキネティックデザインの精悍なKugaも 
牡丹雪のおかげで
寝ころんだ雪だるまになっていた

「わーすごい雪! こんな日にごめんね!!」
美容院から出てきたカノジョ・・・
三つ編みをサイドに流したヘアースタイルに
赤地に満開の八重桜をあしらった振袖は 
白銀の世界によって より乙女らしさを感じさせる

「きっ・・・きれいだな」
思わずつぶやいた僕に カノジョはポッと頬を染めた

「そんな・・・はずかしいよ・・・」

成人式に出席するカノジョを 美容院から会場へ送る 
今日の僕は カノジョ専属の御者
帯がつぶれなように 後部座席へ案内する

「それではお姫様 お城へ参ります 
 どうぞ 前席におつかまり下さい  
 座面に寄りかかると 帯が崩れますので」
頭を下げて右手でエスコートする僕に
 「うむ! ご苦労!」と その気になるカノジョ

車内の 春らしい長閑さとは裏腹に 雪はさらに強くなっていた

我家の家訓 
~雪の日には外出しない! 車は絶対運転しない~
一人暮らしになった今でも 雪が降りそうになると 父から連絡が入る

「わかってるな!」と・・・
今日 僕はその家訓を破った・・・ カノジョのためだ・・・

♪Drive (For Daddy Gene)Alan Jackson♪

しかし・・・
WRCに参戦するフォーカスと同じプラットフォームのKugaといえども 
この雪道は容易ではない
早く会場につかないと いつスタックするかわからない
僕は KugaのESPを信じてアクセルを ゆっくり踏み込んだ 

大雪によって 車はほとんど走っていない
しかし 道のあちこちで 
動けなくなった車が 放置されている
自分も 同じ目に合わないように 慎重にコースを選びながら
なんとか ゴールがイメージできた と思った瞬間・・・・
目の前を走っていた トラックと乗用車が 
運河にかかった 夕なぎ橋の上り坂の途中でスリップしてしまった
完全に道は塞がれた・・・

これじゃ先に進めない・・・
かといって 会場までは まだ8kmもある 

Uターンして他の道を選ぶか・・・
しかし もう一つの道にも 橋がある・・・
同じことが起こっていたら・・・
道さえ 塞がれてなければ コイツ(Kuga)なら 何とかなるのに!

カノジョに心配をかけないように 笑顔を作りながらも
途方に暮れる僕・・・

♪ ♪ ♪
その時 携帯が鳴った 父からだ・・・ こんな時に・・・

「Ken 今日は雪がよく降るな! 
 そういえばさっきテレビで言ってたぞ!
 夕なぎ橋と 富士見橋は 両方とも スリップ車両で通行止めだそうだ
 雪の日をなめているからだ! どうしょうもない愚か者たちだよ・・・
 まぁ~ そんな奴らは 
 県道26号で 迂回することも考え付かなかったんだろうな・・・」

! 26号線・・・! 
それはカーナビにも出ていない 年末に開通したばかりの道路だった
アクセルを思い切り踏込んだ! 
ドリフト気味にUターンしたKugaは 
30cmは積もっているであろう新雪の側道に飛び込んだ 

なんでもお見通しだな・・・
ヘンリージョーンズ(Sean Connery)が
インディを諭す場面が頭をよぎった  Thank you 父さん・・・ 

・・・ ・・・ ・・・

「雪の日にドライブしようなんて 
 どういう風の吹き回しかしら・・・ まぁいいわ! 
 私たちの出会いも 大雪の成人の日だったものね・・・
 家に帰れなくなった 
 私を車で送ってくれた あの時の あなたは素敵だったわ
 もちろん 今もね!」

運転席の男は 頭を掻きながら 携帯電話を後部座席に投げた


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hiropapaman
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