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【ショートショート】 映画と車が紡ぐ世界 chapter48
ハンター ~ キャデラックCTS-V クーペ 2011年式 ~
The Hunter ~ Cadillac CTS-V 2011 ~
9月を迎えると 強い日差しを浴びていても
心は 秋を感じている
ツクツク法師の合唱に ミンミンゼミの声が一つ・・・
かき氷の看板が下ろされ
微妙におちつかない 喫茶店の入口・・・
積乱雲を 追いやろうとする 無数に放牧されたヒツジ雲・・・
2022夏と共に終わりを告げた
僕の恋が
これらを 余計に際立たせているのだろうか・・・
Fuuuuuuuuuuuuuuuuuuu
ため息をついた
Paaaarrrrrrrrrrrrrrrrrnnn!
!!
いつの間にか 青に変わっていたSignal・・・
秋色に染まった 僕とキャデラックCTSは
後続のフェラーリ・カリフォルニアのフォーンで 現実世界に引き戻された
「そんなに 急いでどうするの」
背後から 鋭角的に追い越しをかけて
加速していった 真っ赤な暴れ馬のテールを見ながら
つぶやいた僕は それがカノジョ口癖だったことを思い出した
シカゴ マリーナシティのコーンタワーにような
自走式高層駐車場が CTSのガレージ
ツンと飛び抜けていた
この駐車場も 最近は 成長する都会のビル群に 飲み込まれ始めている
僕は 7階の No711に向けて ハンドルを切った
コーンタワーの上部から
運河に落下する1979 Pontiac Grand Prix・・・
その瞬間を見つめる
ソーソン(Steven McQueen)のやりきれない表情が
CTSのバックミラーに映る・・・
それは ゆっくり 僕の顔にフェードしていった
短針のリズムで生きてきた僕は
長針だったカノジョの世界感を思い出して ゆっくりCTSを走らせた
3周目を廻ったとき
カノジョと初めてデートした
Bar Mahogany(マホガニー)のネオンが見えた
4周目からは西側に 東京タワーが現れた
カノジョと初めて 出会った場所だ
5周目・・・
3年前の秋 空に浮かぶ月を見ながら
永遠の愛を誓った南東方面は 巨大な高層ビルで壁になっていた
6周目 北西側に流れる運河に浮かぶ屋形船
いつか 一緒に行きたいね
実現しなかった カノジョの思いが
ホタルの様に発光しながら 東京湾に浮かんでいた
長針のリズムは カノジョとの思い出の宝庫だった
CTSは 静かにNo711に収まった
カノジョと一緒だったころは
3分足らずで登り切っていた道程が 6分かけていた
Fuuuuuuuuuuuuuuuu 再び ため息・・・
もう 背後からのフォーンを 気にすることはない
CTSのエンジンを切って カーラジオのスイッチを入れる
以前なら
到着と同時に ドアを開けていた僕だったが・・・
「あっ・・・!」
"Close Your Eyes" Doris Day ♪
そして・・・
今度は溜息ではなく・・・ 大きく深呼吸しながら
ゆっくり 目を閉じた・・・
瞼の裏側には
告白したときに 涙をこぼしたカノジョの顔が 焼き付いていた
改めて ゆっくりと 目を開ける・・・と
「マジか・・・ 夢じゃなかった」
目の前に聳え立つ
巨大なオフィスビルの ガラスの壁面に
ここからは 二度と見られ無いと思っていた
大きな 大きな 満月が 映り込んでいた
消すことのできない記憶の中にある
カノジョの携帯番号を
僕は 長針のリズムで ゆっくりと押していた
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