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【ショートショート】        映画と車が紡ぐ世界 chapter4

フィールド・オブ・ドリームス ~ミニクロスオーバーR60 2011年式~
Field of Dreams ~Mini Crossover 2011~

父の日課は 聖人が刻まれたラリックのタンブラーで
マッカランを飲むことだった
酒の肴は 映画
中堅商社のサラリーマンだった父は 深夜に帰宅することが多かったが
この日課が崩されることはなかった

僕は 粗野ですぐに手を挙げる父が嫌いだった
いくつになっても子ども扱いする そんな態度もゆるせなかった

ミニ クロスオーバー2011

18の春 父と喧嘩になった 
無謀でも自分の夢に向けてチャレンジしたい僕と
堅実な人生を促す父

「僕は父さんに なるわけじゃない!」
父のラリックを床にたたきつけて 僕は家を出た

あれから10年 父はあっけなく死んだ  

真っ白なススキの花穂が 
尾根全体を ホイップクリームのように覆う中
MINIクロスオーバーは 
泡だて器のように 
ススキを攪拌するように 軽快に走り抜けた

~Just The Way You Are -Billy Joel~

「なんだかんだ言っても あなたはお父さんそっくりね」
後部座席で 孫の頭をなでながら母は言った

どこが!

僕は無言の抗議 ハンドルワークがぞんざいになった 

「バックミラーが右側に10°傾いているところ
 オートマチックなのに運転中 ずっとシフトレバーを握ってるところ
 車のドアを肘で閉めるところ
 ドライブにビリージョエルが欠かせないところ 
 そして 家族を愛しているところ・・・」

そう言うと 母はバックから 小さなアルバムを出した 
整理された写真は 
家を出た後 小さな劇団に入った 僕の写真だった

「父さんは いつも あなたを見てたのよ 
 お酒を飲んでは あなたのことばかり 話してた」

!!

クロスオーバーは
75号線沿いのラリック美術館に到着した
僕は 父と同じように
日課になっている晩酌用のタンブラーを買おうと思った 

父さんの分と二つ
「今夜は フィールド・オブ・ドリームスでも見ようかな」
見上げた空は どこまでも高く 蒼かった


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hiropapaman
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