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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter47

バックドラフト ~ アウディ RS4  2008年式 ~
Backdraft ~ Audi RS4  2008 ~

ひとまわり違いの兄は消防士
身長は 救急電話のような191cm 
ギリシャ彫刻の様に掘りの深い顔立ちは
妹の私が見ても 放って置けないイケてる男子 でも・・・
36回目の誕生日を迎えて なお独身継続中

その原因は3つ・・・
1つ目は 手癖の悪さ!!

「元気してるかっ!」

「キャー!!!」

挨拶代りに 私のおしりを タッチ!
私以外の人にやったら これって 犯罪!
でも 私が可愛いのが問題なのだということで よしとしよう・・・

2つ目は 多分・・・職業病・・・
高熱の炎に立ち向かうには
周囲の空気を 急速に冷凍しなくちゃいけない

「ソラマチだけに 空っぽの街と思いきや・・・
 なんだこの大混雑! どこの店もいっぱいで そらー待ち だわな」

極寒のおやじギャグ・・・
額に手を当てたくなるが これも人好き好きだから 
なんとかなるかもしれない

問題は 3つ目 それは・・・私・・・

中学1年生の時 両親をいっぺんに亡くした私を
既に独立していた 兄が面倒を見てくれている
両親は 私の感情も一緒に 
向こうの世界へもっていこうとした
そのおかげで 喜怒哀楽の感情が 希薄になった私を
本当は シャイで無口なはずの兄は
売れない お笑い芸人のような振る舞いで 元気づけた
本当は・・・ 
自分が 一番つらかったはずなのに

そんな兄へ 恩返し・・・
24歳になった私は 
兄の後輩でバックドラフトのブライアン(William Baldwin)似の
消防士と結婚したいと告白した これで兄も 自由になれる・・・

ところが・・・
「ダメだ! それだけは だめだ!
 赤色の車にる奴は 熱しやすく冷めやすい 
 特にRS4のように 暴力的な加速の車に乗るアイツは
 自分の命を 軽く見過ぎる! あぶない奴だ! 
 お前を また不幸にしてしまう! だから絶対反対だ!」

・・・ ・・・ ・・・

あの日以来 妹は いなくなった

「お兄ちゃんだって 同じ車に乗ってるじゃない!」
そう言い残して・・・

確かに お前の言う通り つまらない 言い訳だった
ただ・・・ 
もう お前を失いたくなかった・・・

4.2リッターV8は 
初動から4.8秒で100km/hに達する
Porscheさえも凌駕する性能で
魂さえも 置いてけぼりになりそうな加速の中 オレは妹に謝罪した

お前は 母さんに似て 本当に綺麗で 
めっぽう頑固者なところは 父さん そっくりだ
そのとき・・・
消防署から 自動参集のメールが入った
 
台風一過で 
空気さえ むしり取るほどの強風が吹き荒れる中
木造住宅街で 火災が発生した
既に5棟を全焼させた火事は
更に規模を拡大させようとしている
これ以上の延焼を防ぐため 周囲の建物を見回る
そこで オレは見誤った・・・
まだ火が届いてない場所にも 既に一酸化炭素が充満していた
火災で最も危険なのはBackdraftのような派手なもんじゃない・・・
目に見えない狡猾なガスなのだ・・・

慌てて 酸素マスクを手にしたものの
視界が ブラックアウトしていく・・・ 

There, There Katie


「おにいちゃん・・・」
目の前に 純白のドレスを着た妹がいた

お前・・・ どうして・・・

「おにいちゃん 私も 24歳になれたわ
 おにいちゃんが 毎日 毎日 ・・・ 私を思ってくれたおかげです
 これまで 本当にありがとう」

妹の差し出した右手を掴んだ自分が 
消防服ではなく 燕尾服を着ているのに気が付いた
目の前に輝く バージンロードを 妹と一緒に進む
満面の笑顔の妹に 謝ろうとした そのとき・・・

「大丈夫か!!」
同僚の怒鳴り声が 世界を反転させた
危険エリアの外で倒れていたオレは 救急車で搬送された


12年前・・・ 火事で家族を失った・・・
ロングヘアーが魅力的な母さん 
頑固者だけど いつも家族を笑わせていた父さん そして・・・ 
二人の いいところを受け継いで
結婚相手は お兄ちゃんと言ってくれた 妹・・・

みんな 12年前 オレを残して逝ってしまった

毎日 毎日 
写真に語りかけていたオレの夢に 
あるとき 妹が現れるようになった
日を追うごとに 
妹は 母の面影を思わせる容姿に成長していった 

・・・ ・・・ ・・・

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「これからは 自分の人生を生きてね・・・」

RS4の本革バケットシートの助手席で 
滑り落ちそうになっていた妹だったが 
今では車内に お前がいないとしっくりこない それでも・・・

「逝ってしまうんだね・・・
 救われたのは オレのほうだったよ どうもありがとう・・・」

12年間・・・
沈み続けていたシートが フラットに戻った

Kon Kon・・・
助手席の 窓がノックされた
10年付き合ってきた カノジョだった 
今日・・・ プロポーズするつもりだ・・・

「あら・・・ 誰か乗ってたの」
助手席に温もりを感じたのか カノジョが不思議そうに尋ねた

ブライアンが新人消防士を世話するように
オレはカノジョの シートポジションを調整しながら 言った

「あぁ 妹がね・・・
 私のウエディングを機に 
 もうウェイティングしなくていいよ だってさ・・・」



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hiropapaman
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