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映画と車が紡ぐ世界chapter172
ジョン・ウィック:ミツオカ ビュート 12DX K13改 2017年式
John Wick : Mitsuoka Viewt 12DX K13Kai 2017
「おいっ! どこに行くんだよ!」
いつもは おとなしい レモンカラーのビーグル犬 ”デイジー”が
猛烈な勢いで リードを引っ張った
暖かい部屋が大好きなコイツが 小雪舞う 夜の散歩で
こんなに ハイテンションなのは珍しい
さすがに このペースが続くと・・・ ちょっと厳しい・・・
!!
そのとき 目の前に自販機があるのに気付いた
決して 休憩が目的ではない!
適度な水分補給は健康のためだと 空に向かって 言い訳をしながら
コインを入れた その瞬間!
ランプが点滅した自販機のボタンに向かって デイジーが飛びついた
Gragara GsyaaaaaaNNN!
殺し屋たちが放った マシンガンのような音を立てて
勢いよく飛び出したのは お汁粉缶 2本
やれやれ・・・
そう言えば アイツは 冬になると いつも これを飲んでたっけ・・・
アッシュブラックの髪から フワリと漂っていた
シトラスジャスミンの香りが 鼻腔を通過した気がした
カノジョとの共同生活が 3年目を迎えたとき
僕たちは お互いの夢を叶えることにした
カノジョは 犬を飼うこと 僕は マイカーを持つことだった
「犬は あなたと相性が よくなるように あなたが・・・
車は 私も通勤で使えるように 私が選ぶというのはどお?」
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犬との相性って・・・
どうやら 看護師のカノジョは はじめから犬の散歩は
僕の任務にしたいらしい
つまり・・・
どちらも カノジョの一方的な都合ばかりを盛り込んだ
日米修好通商条約のような提案だった
しかし 3年も カノジョを待たせたままの僕には
二人の関係が これ以上大きな戦争状態にならないように
大老 井伊直弼と同じように 不平等条約を受け入れた
カノジョは 大型犬を希望したが
ほんのわずかな抵抗を試みた僕は ビーグルを選んだ
一方で 僕の求めたスポーツカーは
カノジョの趣味で 光岡ビュートになった
お互い 第一希望とは いかなかったが 愛嬌のある家族が生まれた
予想通り デイジーの散歩は 僕の役目になり
ビュートはカノジョ専用の通勤車になった
新しい家族たちは 僕らの心を豊かにしてくれた しかし・・・
僕とカノジョの 仕事に追われる毎日は続いた
いや・・・
むしろ 団欒の時間は 日々削られ やがて 深い溝になっていった
取り返しの つかない状況に気づいたのは
カノジョが 家を出ていく時だった
「デイジーはここにいるのよ・・・」
カノジョが声をかけると
レモンカラーの耳をぴったりと閉じた子犬は 僕の足元で淋しく俯いた
「コレを 持って行けよ!」
僕は ビュートの鍵を手渡した
キラリとリアバンパーを輝かせて カノジョを乗せたビュートは街に消えた
道端に さらさらと粉雪が溜まる 寒い夜だった
そう・・・ 今日のように・・・
Kyan Kyan!!
デイジーの鳴き声は カノジョの思い出を呼び覚ます それでいいのさ
お前がいるから 僕の心は均衡を保てている
ジョン・ウィック(Keanu Reeves)のように
リードをぐいぐい引っ張る デイジーの目的地は
どうやら 闇の中で キラキラしている あの輝きのようだ
んっ!!
それは 記憶の奥底に保管されていた 輝きだった
僕は デイジーと一緒に 走り出した
やっぱり・・・
それは メッキされたビュートの フロントバンパーだった
ボンネットを開けて 覗き込むカノジョの背後に向かって
「どうした・・・」「Kyan Kyan!!」
僕と デイジーが 同時に声をかける
「きゃ!! あらっ デイジー!」
白い煙が出たと思ったら 急に動かなくなってしまったらしい
シトラスジャスミンの領域を侵犯しながら
カノジョに変わって ボンネットを覗き込む僕
やっぱり オーバーヒートか・・・
♪ The Chainsmokers - Closer ♪
いつの間にか カノジョに抱かれ 大喜びのデイジー
そしてビュートは 僕の顔にあったかい湯気でハグハグ・・・
やれやれ・・・
お前たち 仕組んだだろう・・・
仕方ない エンジンが冷めるまで 一緒にいてやるよ
僕は ビュートのボンネットを優しく撫でた
僕とカノジョ そしてデイジーは
ビュートに乗り込むと お汁粉缶で 再会を祝った
いつしか 降り止んだ小雪に代わって
早咲きの桜が 僕たちに 第二章を告げた
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