じいちゃんの左手　その70

学校から帰ってくると　
縁側には　いつも　群青色の市場帽子を斜にかぶった　じいちゃんがいた　
右手にワンカップ　左手には　“わかば”　
田んぼの案山子のように　僕の問いに　何でも答えてくれた　じいちゃん
今思えば　ほとんど　的外れだったけど　心は　いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと　あの縁側が　今もあったら・・・　
きっとこんな　会話になっただろう・・・

『はつゆめ』

1月2日は　箱根駅伝をテレビで見ながら　
じいちゃんが　縁側でナスを　焼く

今年も　七輪にナスを置くと　
味噌に　塩！　そこに溶き卵をかけて　最後に黒砂糖まぶしながら
じいちゃんのワンカップを　ぽとぽと・・・

「じいちゃん　どうして　毎年1月2日に　ナス焼くの？」

「お主・・・　もっと日本について勉強しろよ！
　と言っても　ワシも　じいちゃんから教わった　日本古来の習わしじゃ！
　１月２日は　ナスを食べれば　今年一年　無病息災じゃ！」

そうなんだ・・・　でも・・・　
そんな風習　学校でも聞いたことないよ・・・

「最近の学校は　外国かぶれで　日本の文化を軽んじとるなぁ
　いいか！　日本人として　よく覚えておけよ！」
と　じいちゃん
ワンカップを　一気に飲み干すと
縁側の前に広がる庭の先　稜線の先に真っ白な富士山を指さした

「～イイ富士　見たら　さぁ味噌なすび！　塩に　おたまご　黒砂糖！～♪
　ハイ　これにて　　”初ウメ～”　のできあがり！」

Pufaaaaaaaaaaaaa　と　煙を吐く　じいちゃん
わかばと　茄子の焼けた煙で　ごほっ・・・　と咳き込む僕に
じいちゃんが　出来立てのナス田楽をくれた！

ワンカップを飲みながら　一気にほおばる　じいちゃん
その横で　ばあちゃんが造ってくれた甘酒飲みながら　
僕もアツアツの田楽を一口　

うめ～　サイコー！　これが我が家　秘伝の味！
二人で　真っ赤になって　今年も　いいお正月！

「みなさん　今年も　イイ夢見ましたか？
　ハツユメと言えば
　一富士　二鷹　三茄子　四扇　五煙草　六座頭・・・
　（いちふじ　にたか　さんなすび　しおうぎ　ごたばこ　ろくざとう）」

七輪の横で　丸くなってた　三毛猫のタマだけが　
寂しく語る　有線ラジオに　耳を向けて　大あくびをしていた

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明けまして　おめでとうございます　今年も　よろしくお願いいたします
<(_ _)>