映画と車が紡ぐ世界chapter75
おくりびと ~ 光岡 ガリュー 2004年式 ~
Okuribito ~ Mitsuoka Galue 2004 ~
毎日 トマト畑の向こうにある
Matuさんの家を訪ねるのが ひいばあちゃんと 5歳の僕の日課だった
「よくきたねぇ Taeさん Akiraくんも 大きくなってぇ」
毎日 会ってるのだから それほど変わらないのに
その頃の僕は
日々お兄さんになったね と言われているようで
ふわふわと うれしさを感じていた
そんな Matuさんの隣には 真っ赤なリボンに
真っ赤な ほっぺたのAkariちゃんがいた
「Matuさん 今日も元気だねぇ
ほいでAkariちゃんは ますます綺麗になったねぇ」
ひいばあちゃんも 毎日 同じ挨拶を繰り返えす
Akariちゃんも 僕と同じように ふわふわしているようだった
縁側での ひなたぼっこは
熱くて渋い抹茶と
世界中で これほど甘いお菓子はないと 今も思っている”栗しぐれ”
一本の老桜を眺める ひいばあちゃんとの遠い記憶の旅話
♪AI おくりびと♪
カラスが山に帰るころ 寺の鐘が一つ
ここで決まって ひいばあちゃんが言う
『私たち二人で ”たえ”と”まつ”
二人揃うと 松明のように周りが明るくなるよと よく言われたのぉ』
『そうねぇ でもこれからは
Akira(明)くんAkari(灯)ちゃんの出番だねぇ
二人が結婚すれば そりゃ明るいだろうねぇ
あんたらの 結婚式が見たいねぇ』
と Matuさんが付け加える
すると Akariちゃんが続く
「わたし Akiraくん だいーすき だから いつでも結婚式できるよ!」
二人のばあ様は 見つめ合って大笑い そして
「Akiraくんは どうなの?」
Matuさんが言う
僕は 顔を赤くして 栗しぐれを二つパクリ!
「これは うれしい時 おかしをたくさん頬張るんよ・・・Hohohohoh」
ひいばあちゃんが言う
「もう!! 帰るよ!」
真っ赤になった僕の一言で おしまい・・・
いつまでも続くと思われた 毎日の繰り返しも
父の転勤で ひいばあちゃんを残して 僕の家族はこの街を去ることなった
Matuさんや Akariちゃんだけでなく ひいばあちゃんとも
しっかり さよならを言えなかった・・・
あれから20年・・・
ひいばあちゃんは 遠い昔に空へ帰っていた・・・
過去最速の桜前線が都心を通過した日 「おくりびと」を見た
その夜 僕は不思議な夢を見た
老桜の下に 明るい光が二つ
よく見ると 二人のばあ様が笑顔で立っている
「桜を 見においで・・・」 そう言っている気がした
土曜の朝 僕は朝日が昇る前にガリューを駆って
都会から150km北にある 懐かしい街に到着した
思い出の街は 朝露に日光が灯り ホロホロと輝いている
街は 時間が止まっていたかのように 当時の面影そのものだった
木製の電信柱に タバコ屋の看板 寺の梵鐘にトマト畑・・・
!!
淡いピンク色のロングワンピースを風になびかせた
ショートボブの女性が 見えた
「Akiraくん?」
大人になったカノジョの聲は 僕の想像通り 春風のようだった
Matuさんとひいばあちゃんは
共に今年で13回忌を迎える・・・
仲良し二人組は 新しい世界への出発も同じ年だった
「Taeおばあ様とMatuおばあ様 いつも一緒だったわね
そして・・・私たちも・・・」
「そうだね・・・
実は昨晩 僕は夢をみたんだ ばあ様たちが 桜を見においでって」
えっ!・・・
どうやら カノジョとの出会いは
いたずら好きの ばあ様たちが計画したものらしい
僕とカノジョは 車の中で 笑った
「あの時の告白 覚えてる?」
助手席からの 暖かい視線を感じた僕は
鞄から 二つ 栗しぐれを取って口に放り込んだ
満開の老桜の下で カノジョの笑顔は ほんのりピンク色になった
”おくりびと”で使われた「おくりぐるま」は
光岡ガリューの改造車・・・
ほんのり昔の記憶を呼び覚ます ノスタルジーを乗せた車だと思います
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