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映画と車が紡ぐ世界chapter177

博士の愛した数式:サーブ・9-3スポーツセダン 2010年式
The housekeeper and the professor : Saab 9-3 Sportsedan 2010


僕のフェイバリットスポットである 西の街にある名画座で 
カノジョと出会ったのは まだモノトーンの冷たい風が吹く
「博士の愛した数式」が上映された日だった

80分で記憶がなくなる数学者の話・・・


普段は 人見知りの僕が その日 カノジョに声をかけた

うすぼんやりとした黒いベールに覆われた女性を ほっておけない 
そんな気持ちを 芽生えさせたカノジョは
僕と同じ 2月20日生まれの魚座だった 
誕生石はアメジスト 
誕生花は ストック(和名は紫羅欄花:アラセイトウ)だ

オフホワイトのニットワンピースは 白いストック
花言葉は ひそやかな愛・・・
カノジョは そんな雰囲気を醸し出していた

その日から 週1回 僕たちは 一緒に出掛けた
映画を見たり のんびりCaféで過ごしたり 
Saab9-3で 行き先のない 街を巡るドライブをしたり・・・

口下手で 異性との会話なんて お酒の力を借りないと
できない僕を さりげなくエンジン音が フォローする

僕たちの誕生日220(2月20日)の友愛数である 284の数字をもつ 
SaabのGH-FB284型エンジンが 僕たちを ゆるりと包み込んでくれた

不器用な僕を見て カノジョは よく笑うようになった
ピンクのスカートやパープルのワンピース・・・
ピンクのストックに ふくよかな愛情 
紫のストックには おおらかな愛情という花言葉があるように
春を迎えて カノジョの淋しそうな雰囲気は消えた

想いは 伝わっている そう思った僕は 
アメジストのリングをプレゼントした しかし・・・ 
カノジョが見せた笑顔は 
ルーブルに飾られたリザ・デル・ジョコンドのような
作られた微笑みだった

翌週 いつものように
西の街の名画座で カノジョを待つ僕のところにやってきたのは 
カノジョの手紙を手にした 映画館の支配人だった

「ごめんなさい・・・ もっと早く あなたに逢いたかった」

♪ Jewel - You Were Meant For Me ♪

受け入れがたい 一行だった・・・
僕の記憶も 数学博士のように80分で リセットしてほしかった
その日 僕の中で西という方位が消え
僕のフェイバリットスポットも消滅した

僕の地球儀が三角錐になって5年が経過しても
カノジョとの数か月の記憶だけがリフレインする
昨日も明日もない生活を続けていた
それは 記憶を失う 数学博士と同じような人生だ

そんなとき 関西出張が入った
僕の中では 存在しなくなった西の地を駆る9-3が
雑多な街の中で「博士の愛した数式・・・」の映画看板を見つけた

あの映画館にそっくりな名画座だった

車を停めて 名画座を ぼんやりと眺める僕
女々しい自分が バックミラーに映っていた やはり西は嫌いだ・・・

頭を左右に思い切り振って こみ上げてくる記憶を消し去りながら
車を発車させようとした そのとき・・・

歩道を行く ロングヘアーの女性に気付いた

!!

カノジョだった

思わず 車を飛び出した

「あの・・・」

カノジョを呼び止めようと発した言葉を ぐっと飲みこんだ
運転席に戻った僕は

Hoooooooooooooooooooooooo

大きく 深呼吸をした

カノジョには もう新しい道ができている それに・・・

カノジョの隣にいた かわいいピンクのリボンをつけた女の子
その左手薬指には 
思い出のアメジストが輝いていた

心の中の氷壁が ゆっくりと 溶け始める
僕の地球儀が 再び丸くなり始めたような気がした


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hiropapaman
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