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じいちゃんの左手 その68

学校から帰ってくると 
縁側には いつも 群青色の市場帽子を斜にかぶった じいちゃんがいた 
右手にワンカップ 左手には “わかば” 
田んぼの案山子のように 僕の問いに 何でも答えてくれた じいちゃん
今思えば ほとんど 的外れだったけど 心は いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと あの縁側が 今もあったら・・・ 
きっとこんな 会話になっただろう・・・

『ピタゴラスィッチ』

「お主 なにしてるんだ?」
ビー玉に 割りばし 将棋の駒を取り出して 不規則に並べる僕を見て
あんまり 散らかすなよ! と じいちゃん

「わしが ばあさんに叱られるだろう」だって!
 
「じいちゃん これは ピタゴラだよ 知らないと思うけど」
 
「しっ・・・知っとるよ~ ホレ これじゃろ」
じいちゃん
壁に貼られた世界の国旗ポスターの 南アメリカ大陸を指した

・・・ ・・・ それ パタゴニアですけど・・・ 
と思いながら 額の汗を拭いた
「よし! 完成だ!」

じいちゃんの 目の前に置かれた王将に そっと手を置く

そして・・・
いくよっ! と掛け声をかけて 王将を押した 
きれいに並べられた 将棋の駒が次々に倒れていくと
最後に 赤いビー玉にぶつかる
コロ コロ・・・
転がった先には じいちゃんの わかば

コテン!!

「ヤッター! 大成功!」
大喜びする僕の隣で じいちゃんが ポツリ 
なんじゃ 本陣殺人事件か・・・ 

なに? それ? 
 
「なんじゃ お主! 金田一耕助 はじめての事件を知らんのか!
 それじゃ 名探偵には なれないのぉ」
別に 名探偵になる予定はないけど・・・

残りのワンカップを一気に空ける じいちゃん

!! 
それを見ていた僕の灰色の総細胞が 閃いた!
ピロ ピロ ピロ 鼻歌を歌いながら 将棋の駒を 置き直す

♪ ピタゴラスィッチの曲 ♪

「よしっ! できた! もう一回 スタート!」

ピロ ピロ ピロ
将棋の駒が倒れる 次に じいちゃんの わかば
そして・・・ 最後にビー玉が勢いよく転がると ワンカップに当たった 
 
KiiiiiiiiiiN!
空っぽの ワンカップが 気持ちよく啼いた

これで 終わり・・・  では ありません!

台所から 足音! そして・・・

「はい! はい!」
ばあちゃんが 熱々の焼き芋と ワンカップをもって来た
 
はい! ピタゴラスイッチ !
 

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hiropapaman
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