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映画と車が紡ぐ世界chapter163

ラ・マンチャの男:フェラーリ・F12ベルリネッタ 2016年式
Man of La Mancha:Ferrari F12berlinetta 2016

男が 人生を賭して挑んだプレゼンテーションは 次点に終わった
美術展のそれと違い
社会における2番手は 敗北者を意味する
明日には 自宅に事務所
人間関係さえも 消えて無くなることだろう そして こいつも・・・

6.3L V型12気筒DOHC直噴エンジンと
7速 F1デュアルクラッチトランスミッションを組み合わせた
フェラーリF12ベルリネッタ

男は 苦楽を共にした ロッソコルサ(フェラーリレッド)の跳ね馬と共に
湾岸横浜を駆った 
最後のドライブとして・・・

アクセルを ガツンと踏み込んだ途端に現れる世界は
ゼロ・ゼロ・ナンバーのサイボーグたちだけが体験できる
全てが スローモーションの世界
その中で男は 太陽のコロナの動きさえ 予測するような
世界中の理(ことわり)を 認識する力を感じた
それも 今日が最後・・・

煉瓦が 敷き詰められた小道に F12を停めると
東京湾が見渡せる 護岸へ向かう
そこは 男が社会人としてスタートを切った 思い出の場所だった
遠くで オレンジ色に輝く東京タワーは 
思い出の中のそれと 寸分違わぬ輝きを示しているが
今の男には 最後のマッチ棒・・・ それも消える瞬間の灯に見えた

「俺の人生・・・ なんだったんだろう・・・」

ポツリと つぶやく男の前に広がる真っ黒な海が
今にも 男を呑み込もうとしていた

しかし 
漆黒の海が 真っ先に選んだのは 男の横に立っていた 
F12と同色のワンピースを着た女だった
ヒールを脱いだ女は 
護岸スレスレの位置で そっと目を閉じた

!!

「素敵なお嬢さん 君には あの灯が見えるかい?」

突然の男の声にも 女は全く動じず 静かに言った

「下町育ちの佃煮屋の娘が 素敵なお嬢様なんて・・・
 初めて言われたわ・・・」

マスカラが流れて 
黒い血が流れたような女の顔には
氷のように冷たい瞳が 埋め込まれていた

男は 
少しだけ残った力で 言った

「ロッソコルサを着こなす女性には お姫様の資質がある
 それに気付かない男は 君にはふさわしくない 
 そう神様が思ったのだろう
 アルドンサ(Sophia Loren)のような君には
 間違いなく 素敵な出会いが 待ている」

氷のような女の横顔に フワリとピンク色が浮き上がった

「私の人生には まだ目的が残っていると言うの・・・?」

男は東京タワーを指さした
「君に あのオレンジ色の灯りが見えているのなら」

虚無のような 
黒い海の向こうで輝く 光の針を見つめなる女

「もう一度 自分を見つめてみようかな・・・」

満足そうに 男はうなづく

真っ赤なワンピースを踊らせるように 
くるりと回った女の前に もう黒い海は無かった

「ありがとう ドン・キホーテ(Peter O'Toole)さん・・・
 それじゃ・・・私からも一言・・・
 あなたには 生まれ変わった私を見てもらう義務があるわ
 来年の今日・・・ もう一度 ここで逢いましょう」

女は 街のネオンに消えた

♪ Dotter - New Year ♪

やれやれ・・・

「僕の人生に また目的が生まれてしまった・・・」

目の前に広がる 黒い海に背を向けた男には
再び 煉瓦の小道に戻るしかなかった

そこには 
男の姿を再び見ることができて 
涙をためる淑女のような F12が 待っていた

!!

「まさか お前 じゃないよなぁ・・・」

なにも言わず 静かに 男を迎え入れた
ロッソコルサのF12の フロントガラスに 
小さな 東京タワーが 映っていた

※ 1965年の11月22日 
 ミュージカル『ラ・マンチャの男』がブロードウェイで初演されました


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hiropapaman
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