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映画と車が紡ぐ世界chapter105

黄金狂時代 Jeep ラングラーアンリミテッド JK 2008年式
The Gold Rush Jeep Wrangler Unlimited JK 2008


『最大級の台風26号は夜半過ぎには首都圏を直撃するでしょう・・・』

「おはよう!」
返事の帰ってこない朝の挨拶を
お天気お姉さんに 儀式的におこなった僕は
ベランダの窓を開けた

Byuuuu~
台風の赤ん坊が部屋の中を走り抜ける

「秋だけに オータム!」
一週間前なら 
オヤジギャグ審査員のカノジョが 手厳しい反応を示すところだが
カノジョが出て行った今では
海に向かって
叫んだヤッホーのように 戻ってくる返事はない
その様子を カノジョが残した 
Mrチャーリー(チャップリンの人形)が 冷たい目で見つめる

この部屋は アラスカより 凍死する確率が高い
そう思った僕は 
生焼けのトーストを口にくわえて 部屋を出た

台風の影響で 空に浮かぶ雲が
ルマンに参戦したレーシングカーのように 空を駆け抜ける中
僕は 自転車に跨った

駐車場からは 2008年式 ラングラーアンリミテッドが
「こんな 日こそ 僕の出番でしょ!」と訴えている

そんな愛車に 片手をあげてメンゴ!と一言残し 僕は会社に向かった 

どうせ 僕のことを心配する人なんか誰もいない・・・

台風は 
お天気お姉さんの言葉通り 時間を追うごとに成長し 
帰宅時には 手の付けられない 暴れん坊と化していた
それでも 僕は 自転車で帰宅することにした

Byuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu
弾丸のような無数の雨粒が 身体に打ち付ける
レインコートではなく 防弾チョッキが必要だ

「天気が悪い日に 自転車に乗るのはやめてね」
カノジョの言葉が 頭をよぎる

刹那・・・・

Gouuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu!
高層ビルによって増幅された突風が
僕の右わき腹に 
ずしりと ボディブローを入れてきた

Gurari・・・

自転車が傾き 僕は思わず転倒した
愛用のトミーフィルフィガーのキャップは 
遥か彼方に飛ばされていく・・・

♪ Butterfly Weezer ♪

「ほらね・・・」
風切り音のささやきが カノジョの言葉のように聴こえた

「早く寝た方が良いよ・・・」
「野菜はしっかりとって!」
煩わしく 聴こえていたカノジョの注意が
優しさに変換されて 頭の中をめぐる

暴風雨が 僕の世界をすべて包み込んだ
視覚も 嗅覚も 聴覚も 触覚も・・・
今なら・・・

僕は都会の ど真ん中で
思い切り
泣いた・・・ 叫んだ・・・ Miki・・・

自宅に戻ると
ラングラーアンリミテッドが 口角を上げていた
相棒がずぶ濡れになって帰還したことが
そんなに おかしいかい・・・
ひとり呟きながら ふと玄関に目を向けると・・・

灯りが・・・

そっと開けたドアの隙間から 
ビーフシチューの香りがフワリ

廊下には・・・
ハミングするカノジョの影
そして 玄関に置かれたバスタオルに 
紙袋・・・?
中には 僕が何時か買おうと思っていた 
バーバリーの黒いキャップが入っていた

チャーリーの黄金狂時代のような 
偶然なんてありはしない そう思っていたのに・・・

相手を想う気持ちは アメージングを生む・・・

秋だけに 僕はもう一度 カノジョと恋に落ちる(フォール)


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