見出し画像

映画と車が紡ぐ世界chapter87

ボーンアイデンティティー ミニ クーパーSペースマン2015年式 ~
The Bourne Identity ~ Mini CooperS Paceman 2015 ~

台風の余波で 
南風がドタバタと駆け回るような夜
男は瑠璃色のMINI Cooper S Pacemanに乗り込もうとした女に声をかけた
「何も言わず あの車を追ってほしい・・・」

突然の出来事に驚く女
このご時世 即110番されてもおかしくない状況で
そうならなかったのは 神の気まぐれか それともサタンの囁きか
いや 女心は 時としてhappeningに ロマンスを感じるものなのだ 
ツイン・スクロール・ターボが
大きく吹き上がり 
勇ましいマフラー音が奏でられたとき 男はそう実感した

何も言わず 純白のZeroクラウンを追うカノジョに向かって
「あいつは どうしようもない奴なんだ」
男が突然しゃべり始めた

「何事もあきらめずに 夢に向かって邁進するのが男だ
 それなのに アイツは逃げてばかり
 だから 目の前に落ちてきたチャンスがあっても 
 見つけることはできない
 逆に 社会に仕掛けられた無数のトラップは 
 東京湾に浮かぶクラゲのように 
 プカリプカリと 逃亡者の周りに集まり始める
 ほとんどのクラゲは 単なる障害物であり 大したトラップではないが
 その中に カツオノエボシが潜んでいる
 結局アイツは 自分自身で 危ない世界を呼び込んでいるのさ」

Zeroクラウンは 首都高速湾岸線に入った

「まだ 追うの?」
女が ポツリと言うと 男は内ポケットからキラリと輝くバッチを見せた

「申し訳ないが もう少しだけ付き合ってくれ 
 これは NSC(国家安全保障会議)の業務なんだ
 君の協力は 国家の安全に必要なんだ
 俺の直感では アイツは YOKOHAMAに向かっている
 自らの保身のために 国家機密を危険分子に引き渡そうとしているんだ」

Goooooooooooooooooooooooo
強風が吹き荒れる 湾岸線をものともせずに
MINI Cooper S Pacemanの走りは安定していた 
それは 車の性能というより 
カノジョのドライビングが秀抜であることに 男は気付いた

「君の運転技術は すごいな!・・・
 もっ・・・もしかすると 君はCIAの人間か!」
カノジョの瞳が鈍く輝いた

普通の女性がCooper S それもマニュアルを選ぶだろうか?
それに・・・
考えてみれば 
突然現れた見ず知らずの男を 助手席に乗せるだろうか・・・ 
不安になった男の背筋を 
ひんやりとした汗が落ちた
その時 カノジョが 男の右腕をフワリと引いた 
カノジョの左肩に男の顔が近づいた瞬間 女は男に そっとキスをした

!!

男の視界は ブツリとブラックアウトした  

視界が回復すると
既に Zeroクラウンの姿はなくなっていた

「しまった・・・」
男が呟く
「どうやら僕は 君に はめられたようだ
 仕方ない・・・ 仕事は完遂ではなかったが 
 君を独占するという  ミッションは まだ狙えそうだ」

女は車を停めて言った
「ジェイソンボーンのように?」
再び 男の世界が Gunyariと歪んだ 
「あぁ・・・ その名をどこで・・・」


男は螺子の切れたゼンマイ人形のように 
動かなくなり
躍動する瞳は 
セルロイドのように精気を失った

女の瞳からは 
キラキラと輝く粒が とめどなく流れていた

「貴方は また戻ってしまったのね・・・ 
 でも 私は一人ぼっちじゃない
 貴方がプロポーズしてくれた街で 
 一緒に観た映画の世界に 貴方はいるのだから・・・
 そして・・・
 毎日・・・初めて私と出会う貴方は 
 毎日・・・私を 初恋の相手として 迎え入れてくれるのだもの
 明日も また私に恋してね・・・」

統合失調症の男は マリンタワーが見える街で 
ジェイソンボーンの仲間として生きている
毎日 毎日 記憶がリセットされる世界の中で・・・

助手席で 子犬のように 蹲(うずくま)り 
反応がなくなった男の頭を優しく撫でる女・・・
そんな二人を そっと抱きしめるように 
マリンタワーのライトが MINI Cooper S Pacemanを照らしていた

♪ George Winston - Longing Love ♪

※ 1942年6月13日 
アメリカで戦略事務局(CIAの前身)が発足されました。


いいなと思ったら応援しよう!

hiropapaman
心(ハート)が 3℃ 上がってくれたら うれしいです! そんなとき 気が向きましたら お願いいたします 励みになります!