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映画と車が紡ぐ世界chapter156

トラセンデンス:ニッサン パルサーGTI-R RNN14型  1990年式
Transcendence:Nissan Pulsar GTI-R RNN14 1990

ナビを見るまでもなく 
いつもの場所に パルサーを停めた僕は 目を覆った

「ここもか・・・」

広葉樹林が生い茂る 裏磐梯の一角に Googleearthで見ると 
山がポカリと口を開いたような 場所があった 
小学校の校庭ほどの野芝に覆われた その空間の中心には 
リンゴの木が一本 植わっていた
10年前・・・
会社の保養所の近くで偶然見つけた 秘密の場所
そこを 僕は 『エデン』 と呼んだ

そこで 毎年9月最後の日は ビール片手に 一日横たわる
空が赤くなるまで・・・ それが 僕の夏との別れの儀式・・・ 

「私も 夏と お別れしたいな!」
5年前・・・ 
夏休みと 紅葉の合間となる閑散期にやってくる
危険のかけらも感じない男に
保養所でフロント勤務する野菊のようなカノジョが言った

ボッチ空間が侵害されることに 若干抵抗を覚えたが
カノジョの笑顔と キンキンに冷えたビール
そして保養所名物のチーズ付とあっては 断る理由はない
こうして カノジョは 僕の儀式の一員になった 

芝生に寝そべり ただ空を眺める そんな一日を カノジョも満喫した 
浸透水のように 僕の不可侵領域に入ってくる カノジョは
子供のころから ずっと隣にいたように感じた
それは カノジョお気に入りの
ジブリミュージックのせいだったのだろうか・・・
大自然のsoundと ジブリ映画のサウンドトラックが
僕たちを リアルエデンに誘った・・・
 
「また来年・・・」
いつものように カノジョと握手を交わした去年の儀式のエンディングで
カノジョの鼓動が早くなっているのに気付いた

もしかして・・・ プロポーズを 期待している・・・?
僕の勝手な妄想かもしれない・・・ 
それでも 僕は 来年・・・ カノジョに告白しようと思った

ところが・・・ 2024年の夏・・・
蛇年の上司が ニヤニヤしながら僕に言った

「みんなに迷惑かけて 遊びに行っていた
 君の 9月の休みは もう不要だな!
 赤字続きだった 君の定宿(保養所)は 8月の台風被害で
 取り壊しが決まったらしいよ」

僕の右脳に構築されていた 蒼い・・・青い・・・ 空が 砕けた 

もう夏とは 呼べない10月6日 大型台風が 日本列島を縦断した 
翌日 台風一過の東日本は軒並み 30度を超え 一日だけの夏が戻った
僕は 無断欠勤して裏磐梯にいた

エデン・・・だった場所は  
無機質な 漆黒のパネルが並ぶ メガソーラー発電所に変わっていた

「ここもか・・・」

解体工事が進行する保養所跡地は閉鎖されていた
エデンも・・・ なくなった
カノジョに通じる道は 総て閉ざされた
パルサーGTI-Rに戻った僕は 
蛇上司の顔を思い出し 
カーナビの目的地を東京に変えて アクセルを踏んだ

アダム(人)は 知恵の実を食べたおかげで 
労働しなければ生きられない性を負った だから・・・
仕事が忙しいのは 仕方の無いことだ 
しかし・・・ アダムが頑張れたのは エバがいたからだ

混沌とした 虚無の世界に覆われた運転席 そこへ・・・

Bachi!!
 
メガソーラーの太陽光パネルから パルサーGTI-Rに向かって
電気が流れた 
運転席の彼は 気付かない すると・・・

「目的地に到着しました」

「えっ」

『エデン』だった場所から 10分も経たずにカーナビが目的地到着を告げた 急ブレーキをかけた僕の目の前に 小さな 芝生が見えた

そこは バスケットコートぐらいの小さな空間だったが
西の空が 広く遠くまで見渡る 夏との別れに 最高の場所だ

ありったけのノンアルコールビールをトランクから出すと 
僕は 芝生に横になった
夏の雲と 思い出となったカノジョに 別れを告げるために

♪ 手嶌葵 さよならの夏 ♪

それにしても・・・
大自然の奏でる音色が 
こんなにもジブリミュージックに聴こえるものだろうか・・・
いや・・・ 
それだけ 僕は カノジョのことを想っていたのだろう・・・

「あっ・・・」
ブルーのパルサーだ・・・ 逢える・・・ わたし また彼に逢える

台風一過・・・
『エデン』だった場所にできた 
太陽光パネルを 見つめながら 涙を拭いていた その時・・・

『この場所から 1km西に向かいなさい』
という声を 確かに聞いた
それは ウィル・キャスター(Johnny Depp)からの 
プレゼントだったのだろうか・・・

私は CDラジカセをOnにすると 
芝生に寝ころぶ 彼のもとに ゆっくり 向かった


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hiropapaman
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