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映画と車が紡ぐ世界chapter160
スクール・オブ・ロック:ニッサン・エルグランド E51型 2004年式
School of Rock:Nissan Elgrand E51 2004
「あいつは 目立ちたがり屋で 抑えがきかなかったな」
パーカッションが言った
「ホント! そこはオレでしょ!っていう場所にも グイッと入ってきて
オイオイって感じだったよ
それに アイツの散乱した楽譜のせいで
部室が汚いって 先生に怒鳴られるのは いつもオレたちだった!」
トランペットも追随する
「そもそも ちゃんと練習時間を守ったためしがなかったよな
いっつも フルート待ちって・・・ よく我慢したよ」
コントラバスの一言に みんなが 無言で首を縦に振った
「先生・・・ アイツにだけは 甘かったからな」
テナーサックスの言葉で みんな一斉に右向け右!
10年前は 猛禽類の瞳に 魔法の杖(指揮棒)を手にしていた
僕ら吹奏楽の顧問だった先生も
今日は ファーストフード店の前に立つ白いスーツの 好々爺のようだった
「あの夏の日は 最高だったよな・・・」
トロンボーン兼 ピアノ担当の僕は 窓の外を見る
11月だというのに あの夏の日と同じ 入道雲が浮かんでいた ・・・
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先生の愛車 E51型 ブラック・エルグランドは
合宿地に到着すると
全ての扉をフルオープンして 吹奏楽部のパートリーダーたち
7人を吐き出した
毎年・・・
あと一歩で全国を逃してきた僕らは 高校最後の夏を合宿にかけた
音楽に どっぷりつかった毎日
呼吸も
瞬きも
鼓動さえもが 楽譜に同調していく
総てが整った!
メンバー皆が感じた合宿最終日 それは やって来た・・・
戦後最大級の台風・・・
崖崩れで 孤立した合宿地
氾濫した川の水で 起動不能になったエルグランド
僕らが 総てをかけた最後の夏は あっけなく終わりを迎えた
メンバー皆が 報われない努力に虚無を感じ
自暴自棄に なりはじめたとき・・・
フルートのカノジョが 言った
「私たちの前には 観客の皆さんが いるわ!」
合宿地に併設された
ライフケアセンターに入居する患者たち そして従業員・・・
フルートの提案で 僕らは コンサートを開催した
はじめは
後ろ向きだった コントラバスにトランペットも
お年寄りや 小さな子供たちの 期待に満ちた瞳を見て
演奏熱を 蘇らせた
映画 School of Rock・・・
ロックを通じて
情熱と 生きる喜びを感じることができた子供たちのように
僕たちの奏でる音楽は そこに集う人々に 明日を迎える元気を与えた
そして・・・ 僕らも 暖かい何かを手に入れた
道路封鎖が解除されたとき 僕ら吹奏楽部は終焉を迎えた
僕たちは それぞれの 未来に向けて旅立った・・・
そして今日・・・
僕たちは 再び集まった フルート(カノジョ)の結婚を祝うために
駐車場には E52型になったブラック・エルグランドが停まっている
車内に 無造作に置かれた楽譜が 先生の車であることを示している
披露宴は
花嫁の衣装チェンジのために 遅れてスタート・・・
スピーチでは 花婿より花嫁が目立った
ケーキカットの切り口は 誰が見ても グチャリとしている
それが フルートらしかった
変わらないなぁ・・・
そんなフルートへ 僕たちが選んだプレゼントは 『ビリーブ』
あの夏の日 最後に演奏した 僕たちの曲
調べの最後は フルートの響き・・・ のかわりに
カノジョの むせび泣く声が 加わった
爽やかで 優しい調べは 風に吹かれて 11月の入道雲を スィングさせた
♪ BELIEVE(ビリーヴ)杉本 竜一 ♪
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