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映画と車が紡ぐ世界chapter171

ターミナル:ミニ クラブマン クーパーS 2010年式
The Terminal : Mini Clubman CooperS 2010


まずいな・・・
そう思ったとき 既にクラブマンのタイヤは
僕の精神状態を表わすかのように 虚しく空転し始めていた
Sの称号も 爆弾低気圧によって舞い降る
ホワイトカーペットには 太刀打ちできない

テールを 右に左に振りながら 
小さなバスターミナルに滑り込んだ瞬間
クラブマンは強烈な吹雪によってつくられた
粉雪の山に 突っ込み 完全に身動きが取れなくなった

3年前にトンネルが整備され 
地元住民もほとんど使わなくなった峠道・・・
それも 深夜1時・・・
携帯電話は・・・ 圏外・・・
神に見捨てられた この場所は 今の僕にお似合いだった

いっとき前の光景が浮かぶ・・・
 
「どうして 私たち 一緒にならなきゃ いけないんだろ・・・」
幼馴染のカノジョにプロポーズした結果は 
あまりにもシンプルな テンプルへの反撃だった 

パンチドランカーのように 真っ白なベールに包まれた 僕の脳細胞は
カーラジオから 必死に大雪警報を伝える 天気予報士の声も
受信することはできず
無意識に カノジョを家まで送ったあと 
一人・・・ クラブマンを駆って 夜の峠に向かった

Kon Kon

!!

突然 助手席のドアを叩く音・・・
続いて Zazazazaza・・・ガラスの雪を薙ぎ払ったのは 
ショートボブに 真っ白なオーバーコートの女性だった

「開けて・・・」
Fuyukiと名乗る女性は 僕より10歳年上のグレーの瞳の持ち主だった

「深い雪と書いてFuyuki・・・
 それなのに 車は雪で立ち往生 なんか 恥かしいわ・・・」
オーバーコートを脱ぎながら彼女は言った

コートの下も真っ白な ニットのワンピース
しかし そこには大きなふくらみが二つ・・・
強調されたボディラインは この環境では反則だ
必死に 無関心を装う僕の心の葛藤を楽しんでいるかのように 
助手席のスノーホワイトは 右の口角をくいと上げて微笑んだ
 
「どうしてこんなところに 来たの?」
世間話が弾み 和やかになりかけたとき 彼女が言った

そう言う貴女こそ・・・ 
そんな リターンを返す余裕はない ただ・・・ 言葉に詰まる

「もしかして・・・ 行先なしのハードブレイク ドライブ?・・・」
 
・・・

「わかりやすいなぁ・・・
 君のように純粋な子 私は好きよ どぅ? 付きあってみる?」
 
「えっ・・・」
 グレーの瞳と共に 二つの核爆弾が僕のほうを向いた・・・ そのとき

 ♪ ♪
 
電波をキャッチしてない 携帯電話から カノジョからの着信音が流れた

僕の心の中に渦巻く白い霧が少し薄れたように思えた
「アイツじゃないとダメなんです」
 
「あっ そっ!」
僕の反応に スノーホワイトは 気分を害したのだろう
グレーの瞳に ほんの少しだけ火が灯ったように見えた・・・ そのとき!
彼女は 真っ赤な唇を 僕の唇に重ねてきた

!!
 
そして 助手席の扉を開けると 
「直球勝負の 坊や! 楽しかったわ!
 あなたは まだターミナルに誘ってはいけないのね・・・」
そう言い残して 出ていった
 
「えっ・・・」
突然の状況に 思考が追いつかない こんこんと降り続く雪の中
彼女が向かった先には ・・・ 大勢の人がいた

こんな夜中に・・・ 
それも 廃駅のバスターミナルに どうして・・・ 
そう思っていると 吹雪の中から 真っ白なバスが現れた
人々は 次々に バスに乗り込む

人々の往来でごった返す ジョン・F・ケネディ国際空港の中
入国寸前で ガラスの壁を超えることができなかった
クラコウジア人のビクター・ナボルスキー(Tom Hanks)のような
寂しさを感じた
どうして・・・ 僕だけ 置いていくんだ・・・

最後に真っ赤な唇をした スノーホワイトが 
僕に向かって 小さく手を振ったとき 
クラブマンは 再び 真っ白な大雪に埋もれた・・・

♪ My Little Lover / 「ターミナル」♪

♪ ♪
 
カノジョからの着信音で 目を覚ますと 外は 陽の光であふれていた
クラブマンは 
廃線になった駅の 小さなバスターミナルの真ん中で 止まっていた 

雪はどこにもなかった・・・ あれほどの雪が・・・
 
とりあえず 電話に出ると カノジョが言った

「昨日の答え なんだけど・・・ 私たちが一緒になる理由・・・」

そのあとの言葉は 僕の言葉と重なった
 
 「あなたの腕枕が 居心地がいいからだね・・・」
 「君の膝枕が 気持ちいいからだ・・・」
 
廃線になった駅の 小さな小さな バスターミナルは
カノジョと僕が 学生時代 通い続けた通学バスの乗り場でもあった


1/16は 映画ターミナルにおいて 
 クラコウジアでクーデターが起こり政府が消滅した日です


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hiropapaman
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