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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter69

ダーク・シャドウ ~ シボレー210 1954年式 ~
Dark Shadows ~ Chevrolet 210(Two-Ten)1954 ~

『Dark Shadows』を
カウチソファーで 寝ながら見ていると

「どうして馬の代わりを わざわざ”シボレー”と言ったのかしら?」
ポテチをくわえながら 質問してくる彼女

196年の長き眠りを経て 1972年に目覚めた 
バーナバス・コリンズ(Johnny Depp)が
”馬を用意しろ”とエリザベス・コリンズ(Michelle Pfeiffer)に
指示したシーンのことだ

「現代の馬は車だよね 
 アメリカ車で 馬を連想させるのはフォード社だけど
 魔女はライバル関係にあったシボレーを告げたんだ」

「そうだったのね・・・ 
 あっ! もしかすると魔女が乗ってた車は・・・」

「その通り シボレーCuda convertible 1970年式だ」
シボレー派の僕としては 
ちょっとした 薀蓄を披露できて 気分がよかった 
そう・・・ そこまでは・・・

そう言えば この魔女・・・
アンジェリーク・ブシャール(Eva Green)を指さしながら彼女が言った
「昨日 奈津子の結婚式で見かけた 真っ赤なドレスの女性にそっくりね」

!!
4年前に別れたMisaのことだった

『私たち もし別れても 出逢ったときは 笑顔で挨拶しましょうね』
バレンタインデーのチョコレートと一緒に 
カノジョが僕にプレゼントした言葉

『別れるわけないじゃないか!』
未来の見えない僕は 自信いっぱいに言い切った

『そうね・・・  でも万一ということもあるし・・・
 バレンタインの日に 決めておけば忘れないでしょ!』
カノジョは 自分の主張を曲げない女性だった

『こんなのはどぉ? 握った左拳を胸にあてるの』

『なんだか ヤマトの乗組員みたいだな・・・ 
 いいよ 君が良ければ どうせ 別れることも無いし』

それから1年も経たずに 僕とカノジョは別れることになる
カノジョの出世が僕よりも 
ほんの少し早かった ただ それだけのことが原因だった

たんぽぽの綿毛が優しい風になびかれて 
いつの間にか消え去るように 僕らの関係は 終わった

 

そして4年後
僕は In the mode(真紅のバラ)のようなドレスのMisaと再会した 
1年前から付き合い始めた彼女と 
友人の結婚式に参加していたときだった
新婦以上に 可憐なMisaは 2m10cm離れたところにいた僕に気付くと 
にっこり笑って 胸に左拳をあてた

!!

一瞬ためらったが 
僕も同じように 左拳を胸に当てようとした 刹那・・・

「奈津子と一緒に写真撮りましょう」
僕の左手は 今の彼女の所有物になっていた・・・

真紅のドレスが似合うカノジョは 
Chevrolet 210(Two-Ten)に乗っていた
4年前 付き合っていた彼と 湘南を歩いていた時 偶然見つけた車・・・

昨日・・・
まさか 彼に逢えるとは思わなかった・・・ 
カノジョの目から 一粒涙がこぼれた

♪~The Andrews Sisters 素敵なあなた ~Bei Mir Bist Du Schon~♪

そのとき・・・
彼からの 4年ぶりのメールには 写真が添付されていた
 
胸に左拳をおいた彼 
そして後ろには カノジョとは色違いの黒い Two-Tenが写っていた


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