【ショートショート】 映画と車が紡ぐ世界 chapter39
500日のサマー ~ スバル BRZ (ZC6) 2012年式 ~
(500) Days of Summer ~ Subaru BRZ (ZC6) 2012 ~
嫁入舟で知られる水郷の街を抜けると
南北に延びる広大な砂浜に出た
僕は 2012年式 BRZを海岸近くの風車のたもとに停めると
助手席におかれた
6本のサッポロ黒プレミアム・・・もちろんアルコールフリー
そして IPadを持って 波打ち際へ向かた
黒缶は 42.195kmを走破したマラソンランナーのように
既に 全身を水滴でいっぱいにしている
僕の我慢も限界いっぱい!
Pashuuuuuuuuuu!
太平洋に立ち昇る入道雲を
リアル生ビールの泡に見立てて 一気に飲み干した
1本目・・・出会い
Natuとは 大学のキャンパスで出会った
水泳部に所属していたカノジョは
健康的な小麦色の肌にベリーショートの髪がトレードマークの
ボーイッシュなブレスト選手だった
一方 僕は
太陽からの距離は 冥王星よりも遠い
文学部の部室で 日々小説を書き続けていた
重なるはずのない二人の人生が
交錯したのは 学園祭のロックフェスティバルだった
2本目・・・The Rolling Stones
僕はiTunesを起動させて ぐぃと2本目を一気に飲み干した
♪~The Rolling Stones Paint It, Black~
カノジョは The Rolling Stonesのファンだった
僕は The Beatles派だったけど お互いに ブリティッシュロック!
これぞ魂と 吠えた僕は
普段では考えられないことだが
ビールの力を借りて カノジョにキスをした・・・
3本目・・・500日のSummer
入道雲は いつの間にか
すその部分が 右に大きく流れてはじめた
まるで 純白のウエディングドレスのようだ・・・
付き合い始めて 半年が過ぎたころ
「私の秘密をあなたに伝えるわ・・・」
真剣なまなざし・・・
カノジョは 僕を特別な存在にしようとしている
その思いに答えよう!
僕のカノジョへのLoveが 加熱した
「あなたは好き でも私は恋人を作りたくないの・・・」
Christmasの夜だった・・・
ハートに灯った巨大な炎は
炎の形を維持したまま 凍結した・・・
「どういうこと・・・」
僕は 必死に声を絞り出した
「あなたが嫌いなわけじゃないの
だた・・・ 私って一生懸命になると 覚めちゃうの・・・」
そう言いながらカノジョは 僕の耳元で囁いた
「今日は一緒に シャワーを浴びましょ!」
その一言が 僕の不安をかき消した
しかし・・・
二人の関係が
トム(Joseph Gordon)とサマー(Zooey Deschanel)と
同じ道を歩むことを もっと真剣に感じておくべきだった
4本目・・・卒業
空に浮かんだ ウェディングドレスは
風力発電の風車によって 引き裂かれた・・・
どうして あの時 恋人じゃなくちゃいやだ!
と言わなかったのだろう・・・
出会って1年目が過ぎた
僕とカノジョは 傍目には 間違いなく恋人同士だった
しかし 僕は 大きな不安を抱えていた
卒業したら 僕たちはどうなるのだろう・・・
卒業式・・・
僕は カノジョを呼び止めた
「これからもずっと一緒にいてほしい」
そう言うはずだった
しかし・・・
あの時の カノジョの言葉が 脳裏に蘇った・・・
『一生懸命になると 覚めちゃうの・・・』
カノジョの瞳が
僕の唇から出る言葉を待っていた・・・
「君には 肩甲骨まで伸びた髪が魅力的だと思うよ
それともう一つ・・・
女性はあんまり日焼けしないほうがいいよ」
結局・・・ それが カノジョと交わした 最後の言葉になった
僕と カノジョのstoryは それで終わった・・・
5本目・・・風の便り
1ヶ月前 偶然出会った学生時代の友人から
カノジョが結婚するという話を聞いた
いわゆる・・・ 風の便りだ・・・
卒業から7年目の夏
7月12日・・・
今日は ローリング・ストーンズ デビューの日
そしてカノジョの誕生日でもあった
いつの間にか
真っ白なネコが僕の影の中で 眠っていた
「お前も一人か・・・」
猫の頭を撫でだ
砂浜を後にした僕は BRZに戻った
BRZの所以は
B( Boxer Engine) R (Rear wheel drive) 究極 (Zenith)だが
僕にとっては ブリティッシュ・ロック・究極の略だ
今では お気に入りになったストーンズ
その中でも一番の ハーレム・シャッフルにあわせて
僕はBRZの後輪を思いっきりスライドさせる
ドリフトダンスは
風車の羽にあわせて綺麗なリングを作り出した
”おめでとう・・・Natu”
♪~ The Rolling Stones - The Harlem Shuffle ~
6本目・・・The Beatles
彼が 飲み残した6本目を
BRZの後部座席に 放り投げたころ・・・
南の街で バージンロードを歩くカノジョ
水泳で培った健康的なプロポーションは健在だった
「きれいなお嫁さんね 髪の毛が長くて 真っ白な肌・・・羨ましいわ」
誰もが カノジョの容姿をほめていた
カノジョは 学生時代の彼の言葉を 守っていた
あの時・・・彼が私を引き留めたら・・・
今・・・横にいるのは・・・ ・・・
あなたに出会って 私は恋を知った・・・
♪~ The Beatles Here, There and Everywhere ~
カノジョが歩く バージンロードは
彼が一番好きだった曲・・・
そして 今の自分が 大好きな曲で祝福されていた