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映画と車が紡ぐ世界chapter150

34丁目の奇跡:スバル ・レヴォーグ2.0GT VMG型 2016年式
Miracle on 34th StreetSubaru Levorg 2.0GT VMG 2016


Cafébar Casablancaは ため息で満たされている
今日も バーテンダーの前で 
女性が一人
壁に飾られた ポートレートが 
カノジョのため息に 合わせてフワリと揺れた

「なんで こんな目に合わなければいけないの・・・」

カノジョは ウォッカの主張が強い アキダクトを ぐいと空けた
※ アキダクトのカクテル言葉・・・時の流れに身を任せ

♪ 徳永英明  時の流れに身をまかせ ♪

「マスター 全然酔えないわ・・・ もっと 強いのない?!」 

カノジョの ロンギヌスの槍のような注文を
天女の羽衣のように さらりとかわしながら 
ゆるりと受け止める バーテンダー

「畏まりました・・・」

Haaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

カノジョの口から 三度目のため息が もれた時

「そんな にがい顔して・・・ この店のカクテルは 薬じゃぁないぞ」

いつの間にか カノジョの負の結界の中に 老紳士が 座っていた

人懐っこい笑顔・・・ 
どこかで見た 顔だけど・・・ 思い出せない
そんな思いが カノジョのイライラを 増強させた

「おじいさんには わからないの! 今日の私は最悪なの!」

微笑みを崩さず老紳士は 
そっと チャーリー・チャップリンをカノジョに差し出した

「これは・・・」

アプリコットの香りが漂う
カクテル『チャーリー・チャップリン』は 
彼が この店に初めて連れて来てくれたとき 注文した一杯だった

カノジョの結界が 緩んだ

「今日は 彼の誕生日だったんです それなのに・・・
 残業になるから 遅れますって電話したの
 彼は しかたない また別の日にしようって・・・」

グラスを ころりと鳴らしながら カノジョは カクテルを飲み干した
そして・・・ 
同じ分だけ 瞳から涙をこぼした

「でも・・・ 
 どうしても今日 逢いたくて・・・
 途中で会社を抜け出して 彼の家に行ったの
 そうしたら・・・
 真っ赤なワンピースの女性と彼が抱き合ってたの・・・
 彼が教えてくれた この店で 彼を忘れようって・・・
 いっぱい飲んで 泣いて 飲んで 泣いて それで・・・」

「信じることを あきらめたら 疑うだけの人生になってしまうね」
ニコリと微笑む老紳士

「何を信じろっていうの・・・」
カノジョは すがるように老人に尋ねた

「私はね バカンス中のサンタクロースなんだよ!
 こんな蒸し暑い街で バカンスなんて・・・ と思ったね
 でもねぇ 暑いからこそ 美味しいサマーカクテルが堪能できるんだよ」

都会の ど真ん中にあるCafébarに 最もふさわしくない 
バカンスという言葉のおかげで
カノジョは 老紳士が サンタクロースであるという
驚愕の宣言に対する突っ込みを 仕損ねた

「それは・・・ そうね・・・」

「そうだろう!
 サンタだって 夏は おしゃれにカクテルで乾杯するのさ!
 ちなみに バカンス中 赤い服は禁止! 口ひげも剃ることにしとる!」

この老紳士も きっと辛い人生を送ってきたのだ 
カノジョは 憐みの瞳を老紳士に送った
しかし その一方で 
どこか懐かしく感じる この老紳士が サンタクロースに思えてきた

「年寄の話に 付き合ってくれて ありがとう
 そんな お嬢さんに 季節外れのプレゼントをあげよう」

そう言うと 老紳士は カノジョの耳元で囁いた
 
「ルドルフの鼻のような 真っ赤なレヴォーグに乗ってる彼はねぇ
 間違いなく 君のことを愛しているよ 信じてあげなさい」

現実世界に強制送還されたように カノジョは 青ざめて言った

「そんなこと・・・ 信じられない!」

Katuun! 
カクテルグラスと テーブルが 正面衝突した

「どうして 初対面の私をサンタだと信じることができたのに
 大切な彼のことを 信じられないのかな」

「それは・・・」

「真っ赤な服の女の子かい」

!!

「どうして それを・・・」

「あれはねぇ ワシのプレゼント袋くらい 大きな大きな
 君の勘違いじゃよ! Fo Fo Fo!」

Karaliと グラスの中で氷が踊った
ハッと 我に返ったカノジョ

何かを言おうと思ったが 周りには 誰もいなかった
 
Fuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu

四度目のため息が 
カノジョの目の前に飾られた ポートレートを揺して・・・ 
落ちた・・・

「あっ・・・」

そのとき カノジョは 囁くような老紳士の声を 確かに聞いた

「真っ赤なレヴォーグが待ってるよ」

店を飛び出したカノジョを
床に落ちた『34丁目の奇跡』のポートレートの
サンタクロース(Richard Attenborough)が 見つめていた

Cafébar Casablancaの前に停められた 真っ赤なレヴォーグ
その前に立つ 彼に カノジョは抱き付いた

「お誕生日おめでとう・・・」
彼が言った

そう・・・
今日は 彼と 私・・・ 二人の誕生日

「お兄ちゃん! そして 未来のお姉さん!
 お誕生日おめでとう!」
後部座席からの 思いがけない祝福は
真っ赤な服を着た 女の子・・・ 彼の妹さんだった

カノジョは 空を見上げて そっと呟いた 

Summer Merry Christmas!!



※ 2014年8月24日
  リチャード・アッテンボローさんは 
  僕たちに たくさんの思い出を残して 本物のサンタクロースになった

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hiropapaman
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