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【ショートショート】        映画と車が紡ぐ世界 chapter1

ライムライト ~BNR32 GT-R 2011年式~
Limelight ~ BNR32 GT-R 2011 ~

180秒・・・
それは、毎朝の儀式
BNR 32GT-R こいつの機嫌を損なわないように
秒針3周分の時間を捧げる
そして...

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Bawoon Wooon Bawon アクセル全快!
ダチョウの卵を飲み込むような大口径マフラーが 乾いた遠吠をあげる
ガレージ横の 銀杏の木からは いつものように雀たちが飛び立った
「あの子達の目覚ましには刺激が強すぎるわ」
助手席のカノジョは 目を瞑って ごめんね と謝っていた 
そんなカノジョの横顔は 僕のお気に入りだった
・・・そんな日々がいつまでも続くと思っていた 

~♪~Limelight (1952)

喜劇王のサイレントが 流れる店で カノジョが もうおしまいと言った
「どうして・・・君が楽しくなることだけを考えてきたのに・・・」
「楽しかったわ・・・ でも あなたは なにもわかってない・・・」
飲みかけのギムレットには 
青碧のコートを羽織った彼女のうしろ姿と
終わりの見えない6月の霧雨が写っていた

僕の脚(通勤)は 10両編成の地下鉄になった 
アスファルトを焦がす夏の太陽も 全てを白く染める冬の寒気も 
僕の心を初期化することは無かった

風の便りに カノジョが新しい彼を見つけたと聞いた

空が高く見えた秋の日
GT-Rは あの日と同じ姿で 僕を迎えた
Won! 直6DOHCに灯がともる 儀式開始!  
80秒・・・ 
今日の儀式は とても長く感じる クロノス(時の神)の怠慢か  
120秒・・・ 
車内に詰まった1年前の空気とカノジョの残像に別れを告げるため
僕は窓を全開にした そして空を見上げた
・・・!?
180秒 儀式終了! アクセルは・・・

GT-Rは 静かにガレージを後にした
銀杏に住まう あの雀たちは 生まれたばかりの雛とともに 
静かな朝を満喫していた



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hiropapaman
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