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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter40

ジョニー・イングリッシュ ~ ロールス・ロイス・ファントムVI 1969年式 ~
Johnny English ~ Rolls-Royce Phantom VI 1969 ~

我が家には 天使”Marry”がいた
『Spirit of Ecstasy』
祖父が所有する1969年式ファントムⅥのボンネットが彼女のスペース

先祖代々農家の家系だったが 
商才に長けた祖父は 一代で巨大な繊維会社を築きあげた
おかげで子供のころの僕は お金に不自由のない生活を送ることができた

祖父と僕はいつも一緒にいた
芝居に映画 そして旅行・・・
どれも 両親を抜きにした二人だけの時間だった

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「この車は 英国紳士が乗る車だが
 狭い日本では 扱いにくい
 車体が大きいから運転するのは難儀だし 燃料はすぐに底をつく
 扉も重いし 見た目より車内は狭い 故障もしょっちゅう起こる・・・」

「悪いところ ばかりだね・・・」
ファントムⅥを見ながら僕は言った

祖父は 優しい笑顔で
「そんな無駄の塊のようなコイツが わしにはとても愛おしい
 人生は 無駄の中にこそ 本当に大切なものがあるんだ
 Marryが それを教えてくれた」
ボンネットに立つ 天使を撫でた
僕には よく解らなかったが 
祖父とMarryの間に 赤い紐が見えた

中学生3年の夏 祖父が倒れた
病院に駆けつけた僕は 
もう二度と 祖父と出かけることはできないと思った

祖父も わかっていた・・・
それでも いつもと変わらぬ笑顔で僕に語った

「わしの人生 無駄ばかり それが とっても楽しかった 
 お前も遠回りの人生を歩みなさい」

それから三日後 祖父は Marryの世界に旅立った・・・

Riley Green - I Wish Grandpas Never Died

両親は 祖父とは正反対の性格だった
仕事以外に全く興味のない父と 
無駄を省くことが美徳の母
そんな両親に 巨大で燃費の悪い車は 粗大ごみでしかなかった
ファントムⅥは祖父の四十九日とともに売却された

Marryも 僕の家から旅だった・・・

その日を境に 我家は転落の一途を辿った
彼女は 座敷童だったのだろう

祖父の会社を引き継いだ父は  
人件費を削減し 機械化を勧めた
しかし・・・ 
繊維業の主流は とっくに海外工場だった
祖父の三回忌を迎える頃・・・ 会社は倒産した
 
父は 僕と母を残して 祖父の後を追い
母は 心が壊れた
あれだけ無駄を嫌っていた母は 
無駄なことしかできなくなってしまった

そんな母を介護しながら 僕は小さな自動車整備工場で働いた
毎日 夢をみる間もなく ただ只管働いた 
祖父の言葉も忘れて・・・

そんなとき リアが大破した 1980年式 ファントムⅥが工場にやってきた
工場長は 廃車する予定だったが 僕はその車を引き取った

そこに・・・ Marryがいたから・・・

半年後 仕事の合間を見て
レストアを続けた結果・・・ファントムⅥは美しく蘇った

燃費の悪さは変えようがなく 維持費は家計を圧迫する 
それでも
僕は子供のころの 無邪気さを取り戻していた

「もう二度と 君を手放さない・・・」
Marryに そう誓った

仕事帰り・・・ 
いつもの道を外れて 遠回りする
それは Marryとの あてもないドライブ
祖父に言わせれば 無駄な時間を 過ごすため

その日も
何となくMarryが 見つめていた(ような気がした)
スーパーに ぶらりと立ち寄った

「可愛いい 天使ですね・・・」
ストレートのロングヘアーに 
Polo Ralph Lauren のロングスカートを靡かせる女性が 
Marryを見て 話しかけてきた
僕は そんな カノジョに一目惚れした

「無駄の中にこそ 素晴らしいものが生まれるんだ!」

祖父の言葉が 僕とカノジョを紡いだ・・・ 

長くなったけど
これが 僕とカノジョとの出会いの話・・・

ボンネットのMarryに 微笑む僕を見て 

「どうしたの?」
カノジョが不思議そうに僕を見た

ジョニー・イングリッシュ(Rowan Atkinson)が
愛称ボンネット(ロールスロイス・ファントム)で強敵に挑む
一見無駄で お馬鹿な行動が伏線となり 難局を乗り切る彼は

無駄×無駄×人生×笑顔=happyと言う公式の中で生きている

今 僕の愛車には 3人の天使が乗っている
ボンネットのMarryと助手席のカノジョ 
そしてカノジョのお腹の中に・・・

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